パリ五輪 陸上男子マラソン(10日)
赤崎暁=2時間7分32秒(6位入賞、自己新)
高低差が大きく五輪史上最難関と呼ばれるコースの終盤も、赤崎暁は先頭集団を視界に捉えていた。
レース前までの自己記録2時間9分1秒は、日本記録(2時間4分56秒)にも遠く及ばない。そんな選手が五輪で入賞し、「人生で一番楽しい」時間を堪能した。速くなくとも、強い選手はいることを証明した。
高低差が最大156メートル。加えて、伝統的な町並みは石畳で足を取られやすい。ルーブル美術館などを巡る道のりは美しくも、激しい起伏で有力ランナーに牙をむき、3連覇を狙ったエリウド・キプチョゲも折り返す前にトップ戦線から離れた。
中盤まで上位集団を維持。持ちタイムゆえの開き直りか、赤崎は「自分のリズム」を守ることだけを考えたという。それまでの激しい上りから下り基調になる25キロの地点で集団のペースが乱れるのを懸念し、「意図的に」(赤崎)先頭に立った。
再び駆け上がる局面になる30キロ手前。ハムストリング(太もも裏)がつりそうになり勢いが落ちたが、「(無理に)追いかけて大失速するよりはリズムをキープして、それでも追いつくなら(さらに上位を)狙えばいい」。冷静な判断力も光った。
1年前まで日本国内でも知名度が低かったランナーだ。
熊本出身の五輪マラソン代表は、1924年パリ五輪の金栗(かなくり)四三(しそう)以来100年ぶり。金栗はNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公の一人として取り上げられたランナーである。郷里の歴史に再び脚光を当てた赤崎は、2023年10月の五輪代表選考会、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で、雨中で粘りの走りを見せて、パリ行きを一発で決めた。
バレー部だった中学時代に駅伝大会に駆り出されて才能を見いだされ、地元の開新高で本格的に陸上を始めた経緯を持つ。長距離界の名将・岡田正裕さんから拓殖大時代に薫陶を受け、「マラソンもやれる選手だから」という岡田さんの推薦で長距離の有力選手を擁する実業団の九電工に進んだ。
伸びしろがまだまだある状態で臨んだパリ五輪で、結果を残した。「自分より上の選手は日本にいっぱいいる。自分が入賞できたっていうことは、もっと日本は上の順位でゴールすることができる」。謙遜から出た言葉だが、他の選手に刺激を与える走りだったのは、間違いない。【パリ岩壁峻】
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