最高裁裁判官の国民審査に合わせ、夫婦別姓や性的少数者を巡る裁判、生成AIの活用などについて、審査対象の裁判官にアンケートを実施した。尾島明裁判官から寄せられた回答は以下の通り。
――最高裁裁判官としての信条、大切にしていること、心構えは。
◆長い歴史が築き上げた裁判の本質的な価値は、「中立的な立場で独立して職権を行使する裁判官が、透明性の高い手続きを通じて、適時に、紛争を解決すること」だと思います。
私は、これを実現するのが良い裁判であるとの信念で裁判をしてきました。最高裁では、意見の分かれる問題であっても、裁判体を構成する各裁判官がこういう心構えで最終的な憲法判断・法律判断のための評議を行うことが実現できていると思います。
――国民に身近な司法となるために取り組んでいること、心がけていることは。
◆以前から最高裁が取り組んでいる弁論の活性化は、法廷での対話を通じて、当事者は自己の見解を分かりやすく伝え、裁判所は当事者との間で問題となる争点を共有して理解を深め、社会や国民は、この過程を傍聴することにより法律家が真剣に審理に臨んでいることが分かるということを目指しています。
私は、法廷で当事者との間でできる限り深みのある対話を行い、そのような目的が達成されるよう努めています。
――最高裁では判事15人のうち女性は3人にとどまる。現状をどう考えるか。女性判事がいることの意味や審理に与える影響をどう考えるか。
◆最高裁判事の任命は内閣の権限であり、意見は差し控えます。
なお、私は、下級裁の裁判官であった頃から女性の裁判官と合議をする機会は数多くありますが、これにより審理に当たって何か特別の影響があったと感じた経験はありません。
――司法分野における生成AIの活用のあり方について。
◆これまでも新しい技術の進歩が裁判の在り方に影響を与えてきており、近時急速に進歩した生成AIについても、裁判の基本的な本質を踏まえながら、これをどう使えばより効率的で当事者や国民が満足のいく利用が可能であるのか、さまざまな角度から検討を加えることが必要であろうと考えています。
――最高裁では、判決に際して裁判官が個別に意見を付すことが認められている。どのような考えで臨んできたか、もしくはどのような姿勢で臨んでいきたいか。
◆最高裁は、憲法問題や重要な法律問題を扱うという性格上、いくら評議を尽くしても自分の見解が多数意見と一致しないことがあり得ますが、そのときは意見や反対意見を付するのにためらうことはありません。
また、事案によっては法廷意見・多数意見を敷衍(ふえん)した補足意見を付するのが適当なものがあり、これにより判決・決定の趣旨がより分かりやすくなることもあります。
――再審無罪判決や再審開始決定が出た事件が相次いでいる。過去の再審無罪の事例から、裁判所はどのような教訓を得るべきか。再審法改正の声の高まりをどのように受け止めているか。
◆再審事件についても、裁判所は、現行の法令と判例などに基づいて良い裁判を実現しようと努力しているものと理解しています。再審手続きに係る法改正については、立法政策の問題なので意見は差し控えます。
――夫婦別姓や同性婚を認めるよう求める人たちが、全国で裁判を起こしている。どのように向き合うべきだと考えるか。
◆問題によっては、社会状況の変化などによって憲法や法律の適用のあり方が変遷することがあり得るのは、過去の最高裁判例も示すところです。裁判所としては、こういうことについても、当事者の主張立証をよく吟味して判断することが必要であると考えます。
――趣味や余暇の主な過ごし方と、最近、印象に残った本や映画は。
◆フルート演奏を趣味にしていて、バッハ、シューマン、ドビュッシーなどを敬愛しているのですが、最近なかなか練習時間が取れません。
時間ができると、演劇、演奏会、美術展などに出かけて行きます。国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮(すいれん)のとき」は魅力的でした。
同い年の永井荷風が同じ時季に何を考えてどういう行動をしていたのかに興味があって「断腸亭日乗」を読み続けています(現在は昭和19年10月分)。最近読んで感心し、人にも勧めたのは川添愛「世にもあいまいなことばの秘密」です。
最近印象に残った芝居は「ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―」(松尾スズキ)と木ノ下歌舞伎「三人吉三(さんにんきちさ)廓(くるわの)初買(はつがい)」、映画はヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」です。
尾島明(おじま・あきら)66歳
東大法卒。1985年判事補。静岡地裁所長、大阪高裁長官を歴任し2022年7月就任。第2小法廷。神奈川県出身。
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