記者会見で謝罪して立ち上がる運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長=北海道斜里町で2022年4月27日、猪飼健史撮影

 北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没して乗員乗客全26人が死亡・行方不明となった事故で、釧路地検は9日、運航会社「知床遊覧船」の社長、桂田精一容疑者(61)=北海道斜里町=を業務上過失致死罪で起訴した。

 船の安全に一義的な責任を負うのは船長で、運航会社の社長が刑事責任を問われるのは異例とされてきた。業務上過失致死罪の成立には、具体的な危険性を予見できたか(予見可能性)▽必要な措置を講じれば結果を避けられたか(結果回避可能性)――の2要件があるため、これまで捜査関係者の間でも「現場にいなかった社長の刑法上の過失を問うのは難しいのでは」との見方があった。

知床観光船沈没事故の経過①

 だが、今回の起訴のポイントになったのは、桂田被告が、事業主▽船の運航管理に責任を負う「運航管理者」▽現場の安全を管理すべき「安全統括管理者」――の3役を兼ねていた点にある。

知床観光船沈没事故の経過②

 釧路地検は、これらの立場上、桂田被告には「気象・海象情報を把握し、状況に応じて運航を中止する義務があった」と指摘。桂田被告はこれまでの捜査に「天候が悪化したら、船長の判断で引き返すと思っていた」と供述してきたが、地検は被告に中止を指示する直接的な義務があったと強調した。仮に当日の天候状況を把握していなかったとしても、「把握してしかるべき立場であり、事故は予見できた」と判断した。

 また、海水が流入し、沈没の原因となったハッチの不具合に関して、桂田被告は「船長から報告を受けておらず、知らなかった」と述べてきたが、「ハッチからの浸水まで予見できなかったとしても、因果関係の基本部分を予見できていれば罪に問える」と説明した。【伊藤遥】

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