北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没して乗員乗客全26人が死亡・行方不明となった事故で、釧路地検は9日、運航会社「知床遊覧船」の社長、桂田精一容疑者(61)を業務上過失致死の罪で起訴した。
「ずっと待っていたのでうれしいし、ほっとした。ただ、これからの公判が正念場。人命がかかっている中、危ないと分かっているのに出航判断を下した桂田被告には一番重い罰を与えてほしい」。事故で行方不明となった福岡県久留米市の会社員、小柳宝大(みちお)さん(当時34歳)の父親(65)は、起訴を受けてそう語った。
桂田被告の逮捕後、父親は捜査の一環で、検察の聞き取りに応じた。その際、宝大さんの赤ちゃんの頃の写真や小学校の入学式の日の写真を徹夜でアルバムから選び、愛用のギターや釣りざお、事故当日も背負っていたリュックサックなどとともに持参した。「健康で手がかからず育ち、何の問題もなく過ごしていた。周りの人たちに優しい子だった」と伝えたという。
今後の公判を全て法廷で見届けるつもりだという父親には、桂田被告に尋ねたいことがある。「大事な人の命を奪っておきながら、何を考えていますか。それが今まであなたがとってきた言動ですか」。公判で事故の全容が明らかになり、再発防止につながることを願う。
9月下旬に検察官の聞き取りに臨んだ道内在住の男性(52)も、桂田被告への厳罰を望む考えを示しつつ、被告への思いを率直に伝えたという。「怒りしかなく、言葉では言い表せない感情のままだ。これだけの被害者がいるのに正面から向き合ってこなかった」
7歳だった長男とその母親(当時42歳)は今も行方が分からない。男性は長男が学校で作った工作物やランドセル、写真などを示しながら、通っていた小学校が、事故後も机やロッカーを残して帰りを待ってくれていたことなどを説明した。「自分や周囲がどんな思いで過ごしてきたかを伝えたかった」と語る。
発生から約2年半。男性は「時間がかかったな」と感じているが、望んできた桂田被告の公判に向けて一つの節目を迎えた。一方で、複雑な思いも残る。「業務上過失致死罪の法定刑は5年以下の懲役か禁錮、または100万円以下の罰金で軽すぎる。どうしようもないが、やりきれない」【後藤佳怜、伊藤遥】
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