つるっとした質感と趣がある色味で、懐かしさも感じさせるタイル。京都市在住のタイル絵作家・こだんみほさんは、銭湯など街中に施されたタイル絵を模写し、レジン(樹脂)を使った独自技法で作品を手がける。本物のタイルは一切使っていないのにタイルにしか見えない、魅惑的な作品に迫った。【前本麻有】
タイルを使ったモザイクアートとは違う。銭湯や旅館などのタイル絵を模写し、色づけした部分にレジンをのせる。レジンが固まると、まるで焼成したタイルのように、つるっとした質感になる。作品を見たタイル業者も「本物みたい」とうなるほど。
作品「水の綾」は、大阪市の昭和レトロなラブホテル「ホテル富貴」の内装がモチーフで、菊のタイルと春画のような女性を組み合わせ、タイルの欠けや排水口もリアルに描いた。「手すりの向こう」という作品は、京都府八幡市の遊郭跡の多津美旅館にあるタイルとモダンな女性のステンドグラス。単に「再現」するだけではなく、印象的な部分を組み合わせて「再構成」する。
「私が描きたいのは大正や昭和といった時代を感じるもの。老朽化や耐震面で建物が壊され、タイル絵も失われている」といい、「自分が『後世に残す』とまではおこがましくて言えないが、タイル絵の魅力を伝えていきたい」と語る。大正から昭和にかけては、京都で手作業で作られていた「泰山(たいざん)タイル」のように、機械製造では出せない色や質感のタイルが使われているという。
滋賀県近江八幡市出身。近所に米国の建築家、ヴォーリズが手がけた建物があり、幼い頃から近代建築が好き。大学で美術の教員免許を取得、卒業後は内装業の仕事や美術教員をしてきた。タイル絵を描くきっかけは2016年、趣味の建築巡りで訪れた京都府綾部市の松本湯(現在閉業)。玄関のモザイクタイルが気に入り、模写だけでは物足りず、絵画の盛り上げ技法などに使うメディウムを塗ると本物のように見えた。その後、透明感に優れたレジンが普及し現在の手法となった。
23年に画廊の公募展で特別賞に選ばれた「京極湯」。22年に閉業した京都市上京区の銭湯を訪ね、扉を開けて光が差し込んだ浴場タイルの明暗を描いた。「かつて煌々(こうこう)と明かりに照らされていたタイル。銭湯の主人が『なんでもうちょっと早く来てくれへんかったん』と嘆いた、閉業の無念も描きたかった」と振り返る。「記録するだけなら写真でいい。そのタイルがどんな年月を経てきたか、気持ちを込めて表現していきたい」と叙情的な作品を生み出していく。
個展も開催
東京・銀座画廊「美の起原」で11月12~19日、個展「タイル物語」を開催、13日から同画廊のサイトでウェブ展示予定。こだんさんのホームぺージでは、作品を多数掲載している。
こだん・みほ
滋賀県近江八幡市出身。京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科卒業。現在は京都市在住。
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