HUGに所属しているアーティストの作品を持つ牧みずほさん=高松市で2024年5月24日午後4時53分、川原聖史撮影

牧(まき)みずほさん

 障害者が描いた絵画作品の魅力を、展示会やSNS(ネット交流サービス)を通して発信している。「障害者が社会とつながり、親も安心して子育てできる環境を作りたい」。3月に横浜市から高松市へ活動の場を移し、四国から後押しを始めた。

 長男の勇武(いさむ)さん(23)は、5歳の時に重度の知的障害と自閉症と診断された。会話はほとんどできない。「息子は将来、経済的に自立できるのか」。不安を抱えながら過ごす日々に変化が訪れたのは、勇武さんが養護学校の高等部に通っていた約5年前。幼いころから絵を描くのが好きだった勇武さん。独特の感性で描いた絵を見た福祉施設の職員が「味のある絵ですね」と絶賛し、Tシャツにプリントしてくれた。そのTシャツの写真を自身のフェイスブックに投稿すると「可愛い。売っていないのか」「絵の才能を伸ばしてあげて」といった声が全国から届いた。それまで、障害がある息子のできない部分だけを見ていた。落書きだと思っていた絵が認められた。息子の作品は人の心を動かすことができる。一筋の光が見えた気がした。

 ハンディキャップがある人の作品を世に送り出すことで、本人も家族も才能を認められる喜びが得られる。2022年5月、地元の鹿児島市で障害者の芸術活動支援団体「HUG(ハグ)」を設立した。不安を抱えながら障害がある子を育てている親たちを抱きしめ、安心してもらえたらという思いから名付けた。

 多くの人に活動を知ってもらおうと同12月、鹿児島市から人口の多い横浜市に移った。知人に紹介してもらった音楽教室の一角や、カフェで展示会を開催。作品をクリアファイルやポストカードにして会場で販売したところ、「絵そのものを買いたい」と複数の来場者から申し出があった。「グッズではなく、彼らの作品を知ってもらうことが先決だ」と気づいた。HUGには現在、東京や愛知、広島などの20~60代の男女8人が「アーティスト」として所属。心を安定させるために絵を描き続ける人もいる。HUGで原画を預かり、展示販売する。その売り上げの一部を家族に渡し、障害者の自立に向けた一助になればと考えている。

 より息子と向き合える地域に移ろうと考えるようになっていたタイミングで、知人から「四国は住みやすいと思う。高松はどう?」と提案があった。縁もゆかりもない香川県。とりあえず訪れてみると、街の雰囲気や人の温かさにひかれた。息子が暮らす施設も見つかり、24年3月に高松市に移住。精力的に活動を始め、4月には同市で、所属アーティスト8人の絵画展を開催し、大盛況のうちに幕を閉じることができた。

 「障害がある」ことは「できない」ことではないと言い切る。HUGの活動はまだ始まったばかり。「所属しているアーティストのファンを作っていきたい。才能を伸ばし、世界に羽ばたいてもらいたい」と将来を見据える。【川原聖史】


 ■人物略歴

牧(まき)みずほさん

 鹿児島市出身。福岡県の大学を卒業後、地元に戻り鹿児島市の福祉事務所などで働いた。長男の勇武さんはHUGに所属し、「Isamu」という名前で作品を発表している。HUGの活動が軌道に乗れば、小豆島など瀬戸内海の島巡りをするのを楽しみにしている。

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