主人公のハールンの力強い表情と悲しみを秘めた目が印象的な表紙の絵本を手にした作者の由美村嬉々さん=東京都内で2024年5月20日午後5時20分、庄司哲也撮影

 ミャンマーで差別や迫害を受け、隣国バングラデシュの難民キャンプで避難生活を送る少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」を描いた絵本「ぼくたちのことをわすれないで ロヒンギャの男の子 ハールンのものがたり」(佼成出版社)が世界難民の日の20日に発刊される。主人公の少年の言葉を通して、ロヒンギャが置かれている現状を伝える物語となっている。【庄司哲也】

 主人公のハールンは、ミャンマー西部ラカイン州で暮らしていたロヒンギャの少年。ある日突然、家が襲われ、命からがらバングラデシュの難民キャンプにたどり着いた。家族と離れ離れになり、苦しく悲しい生活の中で、日本で暮らすロヒンギャの男性が希望の光となる学校を作ってくれた――。ハールンが一人称で自分やロヒンギャのことを読者に語りかける。

 作者の由美村嬉々(ゆみむらきき)さんは新聞記者を経て、「ウォーリーをさがせ!」「アンパンマン」などで知られる出版社「フレーベル館」で保育・児童図書の編集者をした後、絵本作家になった。これまでも実話に基づき、目が見えない男性と子どもたちとの交流を描いた「バスが来ましたよ」(アリス館)などメッセージ性の強い絵本を送り出してきた。

 ロヒンギャの本を作ろうと思ったきっかけは、無国籍者を取り上げた絵本「にじいろのペンダント 国籍のないわたしたちのはなし」(大月書店)を発刊したことだった。ミャンマーで迫害され国籍を与えられないロヒンギャにも思いをはせたが、物語に織り交ぜることはできなかった。

 由美村さんは「『にじいろのペンダント』の制作中にロヒンギャ女性を紹介され、『もう1冊、今度はロヒンギャで作らなければ』と思った。食料、水、医療、教育などが不足する ロヒンギャの子どもに焦点を当てることで、ロヒンギャの存在について考える糸口にしてもらいたかった」と語る。

 ロヒンギャについての理解を深めるため、国内最大のコミュニティーがある館林市などで取材を重ねた。難民キャンプを訪れ撮影を続けている写真家の新畑克也さんからは資料として写真の提供を受け、物語のイメージを膨らませたという。その写真を基に作家の鈴木まもるさんがカラフルな絵を仕上げていった。

 主人公のハールンは多くのロヒンギャの少年の思いを背負った架空の存在だが、絵本には難民キャンプに学校を作った在日ビルマロヒンギャ協会のアウンティン副会長や同市在住で小学生だった4年前からロヒンギャ支援活動を続けている鈴木聡真さんと妹の杏さんら実在の人たちも登場する。

 絵本は「どうか、どうか、ぼくたちのことを わすれないで……!」という言葉で締めくくられている。由美村さんは絵本に込めた思いをこう語る。「アウンティンさんは難民キャンプの子どもたちを『未来を照らす明かり。学ぶことで平和を築くことができる』と語っていた。その言葉に出会いこの本が形作られた。どんな状況であってもかすかに光る希望を忘れないでという願いがある」

 A4変型判で36ページ。税込み1650円。ロヒンギャについての根本敬上智大名誉教授(ビルマ近現代史)の解説や新畑さんの写真も掲載されている。

16日、館林市内で読み聞かせ

 世界難民の日を前にロヒンギャの文化に触れるイベント「Culture Bridge Fes(カルチャー・ブリッジ・フェス)」が16日午前10時から、館林市内の「シェアオフィス engine」で開催される。会場では由美村さんが発刊を前に「ぼくたちのことをわすれないで ロヒンギャの男の子 ハールンのものがたり」の読み聞かせを行うほか、アウンティンさんのスピーチなどが企画されている。

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