この男は、あとどれだけの偉業を成し遂げるのだろうか。
大谷翔平や井上尚弥のことではない。秋場所で優勝をした大の里のことである。
夏場所で史上最速、所要7場所で幕内最高優勝を成し遂げた大の里が今場所2度目の優勝。さらに、三役の地位で3場所33勝という大関昇進目安にも到達し、こちらも昭和以降の力士では羽黒山などの所要12場所を抜き、最速記録を大幅に更新する所要9場所での大関昇進となった。
かつてないスピードで番付を駆け上がる、この男の強さの理由とは一体なんなのか。そこには、師匠である二所ノ関親方のある指導方針があった。
好調の要因はまさかの…
この記事の画像(5枚)初日から11連勝。一度も優勝争いのトップを譲らず、14日目に早くも優勝を決めるなど圧倒的な強さを見せた大の里。連日30℃を超える猛暑のなか行われた秋場所だったが、好調を維持できた要因はどこにあるのか。千秋楽を終えたばかりの大の里に聞いてみると、
「15日間毎日、ミニストップのソフトクリームを食べていました。(それが効いた?)効いていましたね」と笑顔で答えてくれた。
場所中は毎日、取り組み後に同部屋の白熊と食事に出かけていたという大の里。気の置けない仲間とコンビニのソフトクリームを食べながら部屋に帰る。そんなリラックスできる時間が大関取りのプレッシャーを和らげていたのかもしれない。
励みになった大先輩の歩み
実は、今場所での昇進を最初は諦めていた。初めて三役に上がった夏場所では12勝の成績を収めたものの、先場所の名古屋場所では9勝と二桁勝利に乗せることが出来なかった。
本人も「名古屋で諦めかけていた」と語る大関昇進。しかし、巡業中に相撲記者のある言葉を聞いて、気持ちが切り替わったという。
大の里:
「同じ石川県出身の輪島さんが、夏場所で優勝して、名古屋場所で8勝7敗。次の秋場所で13勝2敗の準優勝で大関を決めたという話を聞いて、やる気が出てきた」
同郷の大先輩、元横綱・輪島も大の里と同じく夏場所を12勝で優勝するも、翌場所は8勝と低迷。しかし、9月場所で13勝をあげ、3場所33勝を達成して大関昇進を果たした。
大の里:
「『輪島さんと同じじゃん』と自分の中で思って、『こういう形もあるんだな』と頑張る活力になりました」
徹底的な“土台”の強化
今場所の大の里は、立合いの鋭い出足と体格を活かした馬力という持ち前の武器に加え、強力な左のおっつけで相手を押し込む姿が見られ、従来の前に出る相撲にさらに磨きがかかっていた。その進化の理由は何なのか、大の里に聞いてみた。
「出稽古に今回は珍しく行かなくて、部屋での稽古で基本に忠実になって徹底的に腰割りとすり足をやった。親方から沢山アドバイスを頂いて、それが身になっているのかなと思います」
相撲の基本動作を繰り返す、足腰の鍛錬。師匠の二所ノ関親方が徹底する指導方針だ。
二所ノ関親方:
「うちの部屋はそうなんですけど、序の口から一緒に基礎運動をしっかりやりますから。すり足、腰割り、四股、てっぽう。そういったものが一年ちょっと経って、徐々に体に染み付いてきたかなと。土台がしっかりしたことで、下から捻り上げるようなおっつけができるようになる。
(大の里には)何にも技術的なことは教えてない。素直で言われたことをちゃんとやろうという気持ち、常に探究心があるというか好奇心があるというか。それは、うちの力士の中で一番感じる。そういうところが、実力がついている理由なのかな」
基礎を大事にする親方は、たとえ部屋頭の関取であっても、足腰を鍛える基礎運動を徹底させる。さらに、言われたことを素直に受け入れ、やろうとする大の里の性格も相まって、日々の積み重ねが大の里を強くさせていると評価。
そんな二所ノ関親方が会心の一番として挙げるのが、9日目の若元春戦。
二所ノ関親方:
「若元春戦の最後の体を左に寄せた足、あれが日頃の鍛錬のおかげだと思う」
先場所敗れている若元春との一番。若元春の土俵際の粘りに残った右足一本の力で体を寄せ、覆いかぶさるように「寄り倒し」で勝利。この一番に、大の里の成長が見られたと親方は言う。
「(若元春戦のような形で)幕下や十両のときはよろけて負けることがすごく多かった。大学生の頃から彼の相撲をよく見ていましたけど、ちょっと飛んだり跳ねたりするようなところがあった。若元春戦の相撲を見て、この鍛錬の仕方は間違っていない。強くなっていると確信できた」
元々持っていた素質に加え、基礎運動の繰り返しによる足腰の鍛錬で土台ができたことで脅威の成長曲線を描き、大関まで登りつけた大の里。親方からは、実戦的な技術の指導は未だ行われていないとのことだが、この先どれだけ強くなるのだろうか。実力だけでなく、その伸び代も相撲界トップクラスである。
二所ノ関親方:
「大の里が入門した時、3年先を見据えて指導を始めた。まだ1年半でしょ?あと1年半後どうなるか。ここで強くなるのか、弱くなるのか。それも大の里次第なので、これからしっかり指導したい」
歴史に残るような「唯一無二」の存在へ
千秋楽の3日後に行われた大関伝達式。大の里は口上で、「大関の地位を汚さぬよう唯一無二の力士を目指し相撲道に精進します」と決意を述べた。
ここから先は、大相撲界の新たな看板力士として完全に追われる立場となり、研究されることはもちろん、相手はより一層気持ちを入れて向かってくることだろう。
そんな、「大の里包囲網」が敷かれる中、親方と共に作った土台の上にどんな「唯一無二」を築いていくのか。大の里の描く成長曲線が、これからも楽しみだ。
『Mr.サンデー×すぽると!超合体SP』
10月6日(日)22時00分フジテレビ系列で放送
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