第106回全国高校野球選手権大会は第5日の11日に1回戦が終わり、17試合で本塁打が出ない異例の大会となっている。金属バットが導入された1974年以降は、第3日までに本塁打が出ていたが、最も遅いペースを更新中だ。背景には今春から導入された新基準の「飛ばない金属バット」の影響に加えて、ある変化を指摘する関係者もいる。
バッテリーの配球面に変化も
もっとも本塁打に近づいた打球は、11日の第1試合に生まれた。早稲田実(西東京)の宇野真仁朗選手が、鳴門渦潮(徳島)戦で左翼フェンスに当たる二塁打を放った。
宇野選手は高校通算64本塁打を誇る今大会注目のスラッガーで、木製バットを使用している。大会第1号にあと少しで届かず、「良い感じで(打球が)上がったので、結構飛ぶかなと思ったんですけど。力が足りなかった」と塁上で苦笑いを浮かべた。
高校野球では今春、投手の受傷事故を防ぐことなどを目的に、反発性能を抑えた新基準の金属バットが導入された。最大直径が従来より3ミリ短い64ミリに縮小。球の当たる部分を3ミリから4ミリ以上に厚くすることで反発性能を抑えた。打球の平均速度、初速がともに3%以上減少するとされる。
関係者はどう見るか。九州学院(熊本)の監督時代に村上宗隆選手(ヤクルト)の育成に携わり、現在は彦根総合(滋賀)の総監督を務める坂井宏安さんは「(打者の)振りが小さい。前は大きく振っていたのが、コンパクトになってきている。逆打ちとかたたきつける打撃が多い」と指摘する。低反発バットに対応しきれていないため、単打狙いの打者が増えているとみる。
春夏計25回甲子園出場の愛工大名電(愛知)の倉野光生監督は「かつては低めの球をすくって本塁打になるケースがすごく多かったが、今は長打になることも少なくなった。(投手は)低めに丁寧に投げて、強豪校の打者が打ちあぐねている。投手は低めを突けば十分対応できるようになった」とバッテリーの配球面の変化を口にする。
直径が短くなったバットの芯を外すため、縦に変化する球で低めを突く配球が増えた。鶴岡東(山形)の億田知輝捕手は「夏になって(低反発バットに)慣れてくるにつれて、低めをすくっても飛ばないのが守っていても打っていてもわかってきたので、低めに低めに変化球を要求するリードに変わった」と話す。
今春の選抜高校野球大会でも本塁打はわずか計3本(うち1本はランニング本塁打)にとどまり、金属バットがセンバツ大会に導入された75年以降、最少となっていた。
今夏の第1号はいつ出るのか。「(体力のある)1回戦の時はピッチャーが有利ですから」と坂井さん。打者の巻き返しが期待される。【黒詰拓也、牧野大輔、生野貴紀】
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