左足をねじ込むように相手の股に入れると、片足立ちでケンケンしながら回るようにして、ぐいぐいと追い込んでいく。徐々に相手の体は浮いて前のめりになり、たまらず畳に転がる。柔道女子70キロ級代表の新添左季(自衛隊)が得意とする「ケンケン内股」だ。
パリ五輪代表入りを決定付けた昨年5月の世界選手権(ドーハ)も、この技で制した。決勝でジョバンナ・スコッチマロ(ドイツ)に対し、ケンケンしながらの内股で技ありを奪うと、寝技で合わせ技一本。金メダルを獲得した。
通常の内股は足を入れ込んだ瞬間に跳ね上げるようにして投げるが、新添の技が本領を発揮するのは足を入れた後から。体勢を保とうとする相手をしつこく攻め続け、最後は仕留める。相手の片足を浮かせる左足と、ケンケンで体を支える右足の強さ。相手を引き込んで体の軸をずらしていく上半身の圧倒的なパワーも合わさって、実現する必殺技だ。女子日本代表の増地克之監督は「相手が誰でも、(体勢を)崩していれば投げられる」と評する。
土台は柔道を始めた小学生時代に築かれた。小学1年で門をたたいた橿原(かしはら)市柔道クラブ(奈良県)で指導する上島誠治監督の得意技が内股だった。新添にも基礎を説いた上島監督は「10人に同じように教えても、体形も力も違うので、自動的にそれぞれの形になっていく」と話す。新添は小学6年時には160センチと長身で手足が長く、力も強かったため、自然と「ケンケン」に行きついた。
小学生としては異例の稽古量が必殺技へと昇華させた。週に1度、投げ込み100本を実施。恩師は「10(本)×10(セット)というのをやっていた。小学生のときからたくさん投げている」と振り返る。のちに新添は仲間から「小学生でそんなにやってるところないで」と驚かれたという。高学年になり、奈良県内でトップクラスの選手となったときには「新添といえば内股」と、多くの人が知るところになっていた。
磨き続けた技は、世界にも恐れられるまでになった。世界の猛者には、腰を引かれて距離を取られるなど対策を練られることもある。新添は「警戒されているのは構えで分かるんですけど、それでも持っていけるように。足技と組み手を磨かないと」。昨年6月に代表内定を得てから、さらに研鑽(けんさん)を続けてきた。
日本の女子70キロ級は五輪で2大会連続金メダルを獲得しているエース階級だ。初の大舞台に向け「責任も感じているけど、あまり思い詰め過ぎず、自分のペースで」。幼少期から培ってきた「ケンケン内股」を武器に、パリの畳で頂点を目指す。(大石豊佳)
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