「多くの方々が不安な日常生活を強いられた。ようやく被疑者の逮捕に至りました。多くの方々にご協力をいただくとともに、全国各地から多くの情報提供をいただいた。御礼申し上げます」
14日夜に北九州市小倉南区の「マクドナルド322徳力(とくりき)店」で市立中3年、中島咲彩(さあや)さん(15)と男子生徒(15)が刺され、中島さんが亡くなった事件。福岡県警の捜査本部が設置された小倉南署で19日正午からあった容疑者逮捕の記者会見では、冒頭で持丸宗徳署長が捜査への協力に謝意を述べた。
会見場には約50人の報道陣が集まった。橋本浩輔・捜査1課長は「将来ある中学生を殺傷に巻き込んだ。卑劣極まりない。捜査員は不眠不休で必ず捕まえる意気込みを持って取り組んできた」と語り、「スピード逮捕だ」と強調した。
「まさかこんな近くに住んでいる人とは」。逮捕された平原容疑者の自宅近くに住む女性(55)はショックを隠せない様子で話す。「閑静な住宅街で静かな地域。小学校が近くにあり、児童たちも毎日通る。逮捕されてほっとしたが、容疑者がここに住んでいたと思うと恐怖しかない」
平原容疑者の自宅は事件が起きた店舗から歩いて15分ほどの距離。19日は自宅周辺に規制線が張られ、県警が平原容疑者のものとみられる車を押収するなど、周辺は騒然となった。
事件後、容疑者が逃走したままだったため、教育現場には不安が広がった。北九州市では週明けの16日から19日までに市立の幼稚園、小中高などで児童・生徒延べ約1万人が登校を見合わせたほか、多くの保護者が登下校時に子どもを送迎した。市は19日から職員約1000人態勢で児童・生徒の登下校時のパトロールを始めていた。
現場から約350メートルにある市立広徳(こうとく)小では16日に在籍児童の4分の1に当たる83人が安全上の不安のため登校を控え、19日も約30人が登校しなかった。容疑者逮捕のニュースは担任が児童に伝え、給食時間の全校放送でも教頭が説明した。児童からは「よかった」などの声が聞かれたという。
土田成夫校長は取材に「人命が奪われた以上、容疑者の逮捕で元通りとはならないが、日常を取り戻すための一歩だ。あまりにも大きい事件で模倣犯が出るのではないかなど保護者の不安は尽きない。改めて登下校中の安全などを教えたい」と話した。
現場近くの保育園に3歳と6歳の子どもを通わせる女性(29)によると、園では事件を受けて散歩や園庭での遊びが中止に。送迎する保護者も園舎への立ち入りが禁じられた。女性は「事件があった店は子どもたちとよく行く場所で、事件の日も食べに行こうかと話していたところだった。被害者を自分の子どもと重ねて、本当にかわいそうで……」と声を落とした。
平原容疑者方の近くを小学1年の女児と下校していた30代の女性は「(容疑者方は)子どもたちが普段通る通学路なので怖い」と話し、当面は子どもの送迎を続けるつもりだという。
容疑者逮捕を受け、北九州市教育委員会は「地域や学校における安全が確保され安堵している。事件が児童生徒や保護者、教職員に与えた心理的影響は重大で、引き続き心のケアへの支援体制を整える」とのコメントを出した。
市は児童・生徒の不安は容疑者逮捕のみでは解消されないとして、事件を受けての不安や家庭の判断による登校控えを欠席としない▽市職員による1000人規模の見守り態勢▽午後5時までの完全下校――などの緊急対応は終業式の23日まで実施する。
【城井謙治、山下智恵、栗栖由喜、井土映美、山口響】
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