小中学校などで命の大切さや家族の絆を啓発する「いのちの授業」を2005年から続けているNPO法人「いのちをバトンタッチする会」(愛知県豊田市)代表の鈴木中人さん(67)が14年に出版した絵本が今月、初版から10年を経て復刻、重版された。鈴木さんは「身近な人の大切さを考えるきっかけにしてほしい」と訴える。【梶原遊】
鈴木さんの長女景子ちゃんは、3歳のときにがんを発症。6歳だった1995年7月、3年間の闘病の末に亡くなった。絵本では、病院で注射を受ける姿や、小学校の宿題に取り組む様子のほか、鈴木さんが「いのちの授業」を始めるまでをイラストレーターの城井文さんの水彩画で描く。
絵本のタイトルは「6さいのおよめさん」(36ページ、税込み1760円)。景子ちゃんが亡くなったとき、大好きだったウエディングドレスを着せて出棺した。抗がん剤治療で髪の毛が抜けた姿や、亡きがらを抱きしめる家族。優しい筆遣いの中にも、最愛の人の死の「ありのまま」を描いた。
それまでにも、鈴木さんの活動を知ったいくつかの出版社から絵本化を打診された。「(主人公を)子供ではなく、動物や植物に置き換えてほしい」。どの出版社からも、そんな条件が示された。
「ありのままの姿を描かなければ、生きることや命が大切ということを伝えられない」。これだけは、鈴木さんは譲れなかった。
鈴木さんの思いに賛同した出版社「文屋ぶんや」(長野県小布施町)から14年7月に発行され、18年には小学3年の道徳の教科書に採用された。それをきっかけに「絵本を読みたい」という注文が毎年入るようになり、初版発売から9年目となる昨年7月に初版が完売した。
鈴木さんは重版を希望したが、重版には年間1000冊の売り上げが見込めることが条件となる。見通しは立たず、その後は絶版状態が続いた。
転機は子どもを亡くした母親からの電話
転機が訪れたのは今年8月。子供を亡くしたある母親から、鈴木さんのもとに電話があった。「絵本を学校に寄贈したいが、売られていなくて……」。別の母親からも「伸ばした髪を寄付する『ヘアドネーション』の啓発のために絵本がほしい」。手元にある在庫も残り少なく、届けられないことにもどかしさを感じた。
景子ちゃんの死をきっかけに「いのちの授業」を初めて20年。鈴木さんは「命を大切にと言っておきながら、こういう声に応えられない俺って何なんだろう」と自問し、文屋の担当者に伝えた。
「もういっぺん、出版しようよ」。鈴木さんの思いが届き、重版が決まった。同時に、絵本を全国の学校などに献本する活動もスタートした。
「いろいろな人に本を知ってもらい、命の大切さや生きることについて考えるきっかけになれば」。鈴木さんはそう願っている。
鈴木さんは献本1000冊を目指しており、そのための資金をクラウドファンディングで募っている。寄付は申し込みフォームから、来年1月末まで受け付けている。絵本10冊の購入で20%割引などの特典もある。
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