11月26日は語呂合わせで「いい風呂」の日。大規模な災害に備え、自宅の「風呂」はどうすればいいのか、その常識も昔から変化が生じてきている。
防災にとっての「いい風呂」とは何か、国境なき医師団で医療支援を行った経験をもち、被災地での活動や企業の防災コンサルタントも務める辻直美さんに聞いた。
(記者)お風呂の防災というと「水をためておく」というイメージがありますが?
(辻さん)地震の時にはお風呂に水をためて、汲み水を使ってトイレを流すのに使うということも昔は言われていたんですが、今は絶対にダメです。
大きな地震があると、見た目にはわからなくても、お風呂やトイレの配管が壊れているケースがあります。お風呂の水をトイレに流して下の階に漏水してしまったりとか、水の勢いがなさ過ぎてトイレが詰まってしまって、逆流してきたりという実例もありました。災害後も当事者間でもめているケースもあるんです。
(記者)お風呂の水は災害時には「使えない」ということですね。
(辻さん)お風呂そのものってそんなにキレイじゃないと思うんです。水をためれば2日3日するとヌルヌルになって臭いもありますよね。洗濯や掃除に使うのも現実的ではないと思いますし、火事になった時に消火に使うとしても「お風呂場から燃えているところまで何往復して火を消すんですか」って考えると、消火気をつかった方が絶対有効だと思います。
バスタブに直接ためるのではなくて、ごみ袋を2枚重ねて水を入れて、それをバスタブの中に3つ4つ入れておけば、清潔な水をためることができると思います。
(記者)他にも辻さんが目にした「防災の勘違い」はありますか?
(辻さん)避難場所ですね。「まず逃げるときは机の下」とか「お風呂場」とか「トイレ」と昔は言われていたんですが、机そのものもそれほど強度があるわけではないので、今はできれば玄関に逃げましょうってことは言われています。
また、ガスの扱いについても「いち早く火を消さなくては」と、揺れている最中にわざわざ火を消しに行って自分に火がついてしまったりとか、沸かしているお鍋がひっくり返ってヤケドをしたりとかするケースも多々ありました。
地域によって違いはありますが、基本的に都市ガスを使っている場合であれば、地震でガスの供給が止まりますので、今はまずは自分の身を守ることです。自分が住んでいる家のガスが地震の時にどうなるのかを事前に調べておけば安心ですね。
(記者)そもそもどうしてこんな「防災の勘違い」が生まれてしまうのでしょう?
(辻さん)日本で大きな地震の災害といえば阪神・淡路大震災だと思いますが、その時には誰も防災の知識もなかったので、がむしゃらにとにかく対応していたと思うんです。だけど今になって冷静に考えたら「それってこういう方法もあったんじゃないの?」「研究したら実はその方法は良くなくて、こっちの方がいい」ということが分かってきたのかなと。私たち一人ひとりは、そう何回も大きな被災をするわけではないので防災の知識がアップデートできていない、ここが一番の問題だと思います。
当時はそれでよかったかもしれませんが、災害も前は5年とか10年に1回と言われていたのが、いまや1か月に何回?というくらいありますよね。災害が頻発化、激甚化しているので、防災はもっとアップデートしていかないと立ち向かえないです。
(記者)毎日「防災」を考えるのは難しいと思いますが、私たちが普段からできることは何でしょう?
(辻さん)どうしてもお伝えしたいのは3つのポイント、
【1】災害の時は「日常行動の半分しかできない」ということを把握する
【2】日常の小さな「災害対応」で成功体験を積む
【3】トラブル対処の選択肢を用意しておく
です。
【1】災害の時は「日常行動の半分しかできない」ということを把握する、については「みなさん、防災グッズを買って安心してないですか?」と呼びかけたいです。
普段の状況で「使えるだろう」と思っていても、そもそも使い方を知らないと災害時に慌てて何もできないですし、使ったことがないものに対して信頼がないと不安でまともに使えないです。
私は「防災オタク」という人が一番まずいと思っています。知識と物を集めて安心してしまい、シミュレーションをしていない可能性があるからです。
「災害トイレを買ってきた」と大事に置いているのではなくて、1回は使ってみて、使い勝手やコスパ、自分たちの生活スタイルとあっているのかなどを調べる必要があります。
【2】日常の小さな「災害対応」で成功体験を積む、というのは、地震などではなく、日常のトラブルの対処で「慌てないで対応できた」という気持ちを持つことです。
たとえば「寝坊した!」とか「ゴミ出し頼んでおいたのにしてくれない」とか、「子どもが水をこぼして幼稚園に間に合わない!」とか小さな災害の時でも慌てないで対応できるという成功体験が、いざというときに大きな災害に対しても気持ちの面での自信につながります。心が慌てずに対応できるんです。
大きな災害ばかりイメージするのではなくて、普段の小さなトラブルにも「準備」「防災」をしておくことが大事なんです。
【3】トラブル対処の選択肢を用意しておく、は、これまでの内容にもつながります。準備ができていない人は不安になって慌てる、騒ぐ、怒り出す…そうなると冷静なジャッジはできないです。普段からトラブル対処への選択肢を考えておいたり、何かと何かを組み合わせて対応するといったようなやわらかい頭を持っておけば、慌てない、騒がない、怒らない、そして冷静な判断ができます。
ですから、日々防災を意識して、新しい情報をどんどん入れて、令和の今はこういうふうに対応する、ということを皆さんが知ることで災害を乗り切れると思います。
(福テレは防災トピックスを「防災大百科」で発信中!)
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(辻さんが代表を務める「育母塾」でも防災情報を発信中です)
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