全壊した木工店の内部を見せる杉本豊さん。手前が自宅部分で、震災時はこの畳の間にあった座卓の下に一家3人で入って恐怖に耐えた=石川県輪島市門前町走出の総持寺通り商店街で

 東京から石川県輪島市門前町へ移住し、総持寺通り商店街で木工店を開いていた男性が、能登半島地震でその建物が全壊して今後を悩んだ末、「この町でずっと住みたい」という息子の声に背中を押されて店舗再建を決めた。といっても、開店から9カ月で店舗兼住宅を失って経済的には苦しく、男性はクラウドファンディングで再建資金の支援を呼びかけている。

 男性は、杉本木工々房を営む杉本豊さん(50)。現在は中学2年、小学5年の息子2人と、昨年の新学期前に東京・練馬から移住してきた。子どもが通った幼稚園の園長が門前町出身で、園長が夏に帰省した時期に家族で遊びに来ていた。子どもたちは豊かな自然が大好きになり、杉本さんも町にひかれて移り住むことを決断した。

 元日の震災発生時は店舗奥の居間に家族3人でいて、一緒に座卓の下にもぐって恐怖に耐えた。柱は倒れかけて2階は傾き、そのまま崩れ落ちてきそうだった。しかし隣家が堅固で、そこに倒れかかる形で建物は倒壊を免れた。一家にけがはなく、3日間の車中泊の後、近所の中学校に設けられた避難所で過ごし、今は仮設住宅に入居している。

 避難所暮らしの中で、今後のことを考えた。杉本さんは「この町にきて本当に温かい人ばかりで、実は私もずっとここで生きていきたいと思っていた」という。しかし、子どもたちの考えを尊重しようと、2人に「東京へ帰る選択肢もあるぞ」と問うと、「絶対に帰りたくない」とそろって答え、杉本さんは心を決めた。

 杉本さんは地域の消防団にも入っていて、地震後は復旧活動などに追われた。「店舗再建に動くのは遅れたのですが、クラウドファンディングで支援をお願いすることにしました。ここでがんばり、移住後に親切にしてもらった町の人たちに恩返しもしたい」と語った。募集は5月18日午前11時まで。詳細はクラウドファンディングのHPへ。【戸田栄】

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