子どもの将来の夢の上位には野球選手やユーチューバー、パティシエなどが挙がるが、福祉の仕事はなかなか出てこない。そんな現状を変えようと、ヒーローとして活動している介護福祉士がいる。人手不足や低賃金に苦しむ福祉の従事者を励まし、子どもに夢を与えようと立ち上がった“福祉の戦士”は、どんな社会を夢見て27日投開票の衆院選に1票を託すのか。
「おいしいですか?」。10月上旬、福岡市東区の障害者施設「たいようの里」で利用者の食事を介助するのは施設主任で介護福祉士の西田将人(まさと)さん(52)。誤嚥(ごえん)を防ぐため、一口の量や喉の動きに細心の注意を払う。
経験豊かなベテランとして若手の指導にも当たる西田さんは仕事が休みの週末、ヒーローに変身する。その名も「社介戦士サンタイガー」。鮮やかな青色スーツに身を包み、勇ましいマスク姿で地域のイベントなどに参加し、悪役と戦うオリジナルのショーを披露している。
大学を出て30年間、一貫して高齢者施設など福祉の現場に身を置いてきた。ヒーローの活動を始めたのは2年前。子どもの頃から「仮面ライダー」や「ウルトラマン」など特撮ものが大好きで、業界が疲弊する現状に「ヒーローなら現場を励まし、子どもたちに福祉の仕事を知ってもらえるのでは」と思い立った。
衣装はご当地ヒーローの衣装を手がける造形師に特注。名前は社会福祉士と介護福祉士の「社」「介」や漫画の主人公「タイガーマスク」などから名付けた。
「人に向き合い、相手が何を求めているか考え、助ける。福祉はかっこいいヒーローだ」。子どもたちにも、ショーなどで伝える。街中で「サンタイガーだ」と声を掛けられるなど徐々に知られる存在になった。
福祉の現場は人手不足に苦しんでいる。中でも介護分野は深刻だ。厚生労働省の推計によると、2026年度には介護職員が約25万人不足する見通しで、65歳以上の高齢者数がほぼピークとなる40年度には約57万人が不足するという。
背景の一つに低賃金がある。厚労省によると、22年の介護職員の平均給与は月29万3000円で、全産業平均の月36万1000円を7万円近く下回った。雇用動向調査では、需要の高まりで介護職に就く人が離れる人を上回る「入職超過」が続いていたが、22年に逆転し「離職超過」となった。国は介護報酬の増額改定など処遇改善を進めるが十分とはいえない。
西田さんの周りでも次々に仲間が去った。以前勤めていた高齢者施設では高い志を持っていた20代の男性職員が、子どもができたことを機に「この給料では育てられない」と退職し、トラック運転手になった。
「福祉に強い思い入れがある人でも、周りがどんどん辞めることで心が折れてしまう。最終的に置き去りにされるのは利用者です」と西田さん。「個人の生活が豊かでなければ、ケアの充実は難しい」と話す。
同じことはこの国全体にもいえるのではないか。自分らしく生きていく土台がしっかりしてこそ、「誰かのために」と行動を起こせる人が増えるはず。人々の心が豊かな国であってほしい。選挙ではそんな思いをぶつける。「有権者としての責任を果たすため、子どもたちの未来のため、机上の空論でなく、普通の人たちの暮らしをきちんと考えてくれる候補者を選びたい」【山口響】
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