再審開始決定を受け、記者会見で心境を語る前川彰司さん(中央)=金沢市で2024年10月23日午後0時9分、萱原健一撮影

 38年前に福井市で起きた女子中学生の殺人事件を巡り、一貫して無実を訴えてきた前川彰司さん(59)に、名古屋高裁金沢支部が再審開始を再び認めた。今月は、強盗殺人などの罪に問われ、死刑が確定していた袴田巌さん(88)の再審無罪が確定したばかり。「開かずの扉」とも表現される日本の再審制度に新たな風は吹くのか。

 前川さんは、再審開始決定に「浮かれるわけにはいかない。闘いは続く」と気を引き締めながらも、決定が出た直後は安堵(あんど)の表情を見せた。この日、福井や富山、愛知など全国から集まった支援者は約40人。吉報が届くと、「開示証拠が無実を明らかにした」と記した旗も掲げ、前川さんと喜びを分かち合った。

 弁護団が開いた報告集会には、他の冤罪(えんざい)事件で苦しんだ当事者も駆けつけた。大阪市東住吉区で1995年に小学6年の女児が焼死した住宅火災で殺人などの罪に問われ、再審無罪が確定した母親の青木恵子さん(60)は「前川さんは昨日もあまり食べられず、(冤罪事件の)当事者としてその気持ちがすごくわかった」と心情を思いやった。茨城県で起きた強盗殺人「布川事件」(67年)で再審無罪となった桜井昌司さん(23年8月死去)も長年、前川さんを支援してきた。青木さんは「天国で喜ばれていると思う」と涙ぐんだ。

 会見に同席した村岡啓一・白鷗大参与(法律顧問)は「今回の弁護団が優れていたのは有罪になる証拠がないことを明らかにするため、客観的裏付けがあるかどうかを逐一洗い出したこと。結局、何もなかったことをきれいに証明した」と評価し、「証拠開示の重要性が本決定の意義だ」と述べた。

 前川さんは最後にこう述べた。「袴田さんの無罪が確定し、再審に対して新しい風が吹き始めていると感じる。今回の開始がその風を後押しすることになると期待する。刑事司法のあり方に今回の決定が影響を与えるなら本望だ」【萱原健一】

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