能登豪雨から21日で1カ月を迎えた。あの日、石川県輪島市の市街地にある「室(むろ)金物店」では、商品の大半が泥水につかる被害にあった。店主の室栄司さん(57)は「刃物は赤くさびてしまった。洗って乾かしても、またサビが浮き出てくる」とため息をつく。それでも「やめるつもりはない」と前を向く。
「うちの店は地域の何でも屋」。室金物店は室さんの祖父が行商から始め、昭和20年代(1945~54年)に現在の場所に店を構えた。
家庭用の鍋や包丁、業者向けの工具などを販売する。プロパンガスの供給工事も担ってきた。
元日の能登半島地震では、店舗兼住宅や倉庫が全壊した。クラウドファンディングで資金を募り、店の並びにプレハブの仮店舗を建てた。地震から半年が過ぎた7月、営業を始めた。
そんなさなかに、豪雨による水害に襲われた。仮店舗が浸水し、泥水は一時約170センチの高さに達した。
地震では無事だった在庫や新しく仕入れた商品に加え、ガスの工事道具などが水につかった。被害額は計約5000万~6000万円に上る。
被害は大きかったが、営業はやめなかった。ボランティアや友人が泥かきなどの手伝いに駆けつけてくれ、10月中旬にはファクスやパソコンなども新たに買いそろえた。
懸念は、今後の街の状況だ。地震で持ちこたえた家が水害に遭い、取り壊しを決めた人もいる。「ここで商売を続ける意味はあるのか」との思いが湧く。
それでも、室金物店を頼る客がいるからこそ、仮設住宅でのガス工事などの仕事をこなす。「こつこつできることからやっていくしかない」
不安はあるが、被災地が復興に向けて前向きになることを願っている。「地震の時も、直後はみな『もうやめる』と言っていたが、2、3カ月後には『やっぱりがんばろう』となった。そんなふうになればいいですね」【国本ようこ】
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