鳥取県東部の若桜(わかさ)町と八頭町を結ぶ第三セクター「若桜鉄道」(19・2キロ)。その沿線で毎年夏に「隼駅まつり」を八頭町などと開き、駅名と同じスズキの大型バイク「隼」乗りたちが国内外から集まる。聖地巡礼を楽しむライダーのもたらす経済効果は地域の活性化につながっている。
「お帰りなさい。初めての方はようこそ。今日は楽しんでください」
8月4日、八頭町の船岡竹林公園。抜けるような青空の下、隼を中心に色とりどりのバイクでやってきたライダーたちに石谷優さん(49)は呼びかけた。スズキ社長は「来年は必ず参加します」とメッセージを寄せた。今年で14回目の「隼駅まつり」。参加者は約2700人、バイクは約2500台を数え、過去最多となった。
まつりは2008年、バイク雑誌が「8月8日はハヤブサの日」として若桜鉄道隼駅に集まるよう呼びかけたのがきっかけで始まった。「隼駅を全国に発信する好機」。地元有志196人が翌年守る会を設立し、まつりを開いた。1987年に三セク化された若桜鉄道は少子高齢化に伴い乗降客は減少。上下分離方式を導入するなど、中山間地の大切な交通手段であるローカル線は存続へ正念場を迎えていた。
まつりで参加者は郷土芸能や賞品が当たるじゃんけん大会、著名な2輪レーサーによるトークを楽しみ、集合写真に納まる。半数は九州や関東など遠方から自走で訪れ、韓国や台湾、ブラジルの隼乗りも。会場のあちこちで交流の輪ができ、兵庫県伊丹市の会社経営、黒崎実さん(56)は「情報交換が楽しみ」と話す。
石谷さんは22年に2代目会長に就任すると早速、スズキ社長に隼開発陣のまつり参加を直談判し、翌年実現させ隼オーナーを歓喜させた。今年も実行委員会会長を務めた。
まつりを重ねるごとに隼駅の知名度は上がり、週末には駅にライダーが集まるようになった。町内には彼らが一服するカフェができ、サテライトオフィスも開設された。まつり参加がきっかけで町に移住した人もいる。隼カラーに仕立てた鉄道車両とバイクが併走するライダー企画の貸し切りイベントは恒例化し11月にも開催予定だ。
「地元への経済効果は確実に上がっている」と手応えを感じており、通年イベントも検討する。「旧国鉄若桜線全線開通100年とまつり開催20回が重なる30年には特別企画を打ち出したい」と6年後を見据えている。【渕脇直樹】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。