2018~22年度に国から犯罪被害者に支給された給付金(総額約48億7300万円)について会計検査院が調べたところ、国は被害者の代わりに取得した損害賠償請求権を全く行使していなかったことが判明した。給付制度は支給額に相当する損害賠償を国が加害者に請求し、資産などを回収する仕組み。にもかかわらず、警察庁が必要な事務処理をしていなかった。請求権が時効で消滅したケースも多数確認され、検査院は18日、警察庁に債権管理体制の整備などを求めた。
犯罪被害者給付金は、事件に巻き込まれた被害者や遺族の経済的、精神的負担を緩和するために国が支給する一時金。被害者から申請を受けて都道府県警が事件の事実関係や加害者の保有資産、賠償の意思などを調べ、その結果を基に公安委員会が裁定する。警察庁は支給手続きのほか、国が取得した損害賠償請求権の管理を担う。
検査院によると、加害者が心神喪失で不起訴処分となり損害賠償請求が発生しない事件も含め、資料が残る18~22年度に支給された給付金を調べたところ、その全件で、警察庁は歳入徴収官への通知や債権管理簿への記載といった債権管理法に基づく事務処理をしていなかった。このため、加害者への請求、資産などの回収も行われなかった。
さらに17都県の821件(支給額計21億4921万円)を抽出調査した結果、うち427件(同計9億5857万円)は、国に請求権があっても23年度末時点で時効を迎えていた。各都県警が作成した加害者に関する調査資料に「資産有り」と記載されていたケースも78件(同計2億3703万円)確認され、一部は警察庁に共有されていた。
検査院に対し警察庁は、大部分の加害者は資産がなく請求しても回収の見込みがない▽回収額よりも請求にかかる費用の方が割高になる――といった事情を説明したという。
検査院は「(都道府県警の)調査結果を十分活用していない事態は不適切。債権管理法の理解が十分でなく、事務処理体制が整備されていない」と指摘。警察庁は「真摯(しんし)に受け止め、是正改善していく。適切な債権管理を行うための事務処理体制を既に整備した。加害者の資力についても、適切に記載するよう都道府県警に通達した」とコメントした。【渡辺暢、山崎征克】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。