なりすましのアカウントについて「とても気持ちが悪い」などと訴える女性の陳述書=大阪市北区で2024年10月15日午後7時14分、土田暁彦撮影

 インターネット上の中傷投稿などについて、発信元の特定を求める手続きが簡略化され、裁判所への申し立て件数が急増している。最高裁のまとめでは、2024年上半期で前年の2倍近くになっていることが明らかになった。

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 SNS(ネット交流サービス)などでの中傷は匿名で投稿されることが大半だ。うその内容で名誉を傷付けられたなどとして賠償を求める際は、まず投稿者を特定しなければならない。

 この場合、SNS事業者などに投稿時に使われたIPアドレス(インターネット上の住所)の開示を求めたうえで、ネット接続事業者に投稿者の氏名や住所の開示を求めるという2段階の手続きが必要だった。

 これが22年の法改正で1回で済むようになった。被害者側からの申し立てに基づき、裁判所が投稿者情報の開示について、可否を決める「非訟(ひしょう)手続き」という仕組みが導入された。

 最高裁によると、24年上半期(1~6月)に全国の地裁に申し立てられた非訟手続きの件数は2979件。23年上半期の1575件から2倍近くに急増した。SNS事業者の所在地にある裁判所に請求する必要があり、23年1年間の3959件のうち、約95%が東京地裁に集中している。

「誰が自分になりすましているのか」。女性は投稿され続ける卑わいな画像を追跡するうち、過呼吸に陥った=大阪市北区で2024年8月7日午後4時1分、土田暁彦撮影

3カ月で情報開示

 SNS上で自らになりすまされたとして非訟手続きを利用した女性の場合、約3カ月で投稿した相手の住所や氏名などの情報が開示された。

 女性の代理人を務める曽波(そわ)重之弁護士(大阪弁護士会)は「従来は開示されるまでに半年から1年程度かかったが、今回は3カ月余りと早い。迅速な被害救済ができる」と一定の評価をする。

 一方、課題もある。裁判所の開示決定が出てもSNS事業者の対応が遅れるケースも少なくないという。投稿した場合にはアクセスした記録(ログ)が残るが、通信事業者が管理する保存期間は多くの場合、3~6カ月とされる。これを過ぎると特定は難しくなる。

 こうした現状について、手続きに詳しい中澤佑一弁護士(埼玉弁護士会)は「申し立て件数の増加で、対応が遅れているのではないか」と指摘。「SNS事業者が保有する情報を早く回答しなければ、この制度は機能しない。罰則を科すなどし、事業者が誠実に対応しなければならない仕組みにできないか」と話す。【土田暁彦】

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