2017年5月、北九州市小倉北区のアパート「中村荘」が全焼し、6人が死亡した火災で、福岡地検小倉支部は17日、現住建造物等放火と住居侵入の容疑で逮捕された元住人の井上浩二容疑者(56)を両罪に加え、殺人と殺人未遂の罪でも起訴した。
全焼した北九州市小倉北区のアパート「中村荘」は、低家賃で保証人も不要なため、生活困窮者らの簡易宿泊所のような役割を担っていた。亡くなった入居者の男性6人の中には、自立のめどがついた直後に命を絶たれた人もいた。関係者は「6人の命が戻ってくることはない」と肩を落としつつ、事件の全容解明を求めた。
「年金を貯蓄に回し、自立しようとしていた。物件も決めていて、(火災があった)5月中には別のアパートに転居する予定でした」。入居者の一人で犠牲となった河野正裕さん(当時77歳)を支援していた北九州市のNPO法人「抱樸(ほうぼく)」スタッフ、山田耕司常務(50)は悔しさをにじませた。
北九州市出身の河野さんは電気機器メーカーに長く勤めたが、友人の連帯保証人になっていたことから借金を背負い、生活が困窮。受給していた年金で借金を返済しながら路上生活を続けていた。2006~07年ごろ、河野さんが抱樸の炊き出しに訪れたため、事情を聴いた山田さんは「返済よりも、まずは家に住んで生活を立て直した方がいい」と勧めた。だが、河野さんは拒み続け、借金返済を優先したという。「義理堅い人だった」と山田さんは振り返る。
借金返済のめどがついた17年3月ごろ、河野さんは一時的に中村荘に入居。5月中に別の物件に転居する予定で、ようやく自立への道を歩み始めようとした矢先に火災で亡くなった。
「当時は無事に逃げてくれているだろうと願っていたが……。亡くなったことはショックだった」と声を震わせた山田さん。殺人や現住建造物等放火などの罪で起訴された井上浩二被告は火災の約1年前に1カ月ほど中村荘に入居していた時期があったとされる。「一体何があったのか、真実を教えてほしい」と漏らした。【井土映美】
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