おむつやごみを回収するワゴンが置かれ、廊下には放置された台車。
90人ほどが入居する、東京・足立区にある住宅型有料老人ホーム「ドクターハウス ジャルダン入谷」の映像です。

ここは「イット!」が連日追跡取材をしてきた、いわゆる“見捨てられた老人ホーム”です。

元職員:
9月30日に給料が支払われなくて、30人くらいが2カ月の間に職員がどんどん辞めてしまっている状況。

給料の未払いにより、一気に30人もの職員が一斉退職する非常事態に。

一体何が起きていたのか、これまでの取材で実態が少しずつ明らかになってきました。

施設はちょうど1年前の2023年10月にオープンしたものの、7月ごろから業者への支払いが滞り、給料の支払いが遅れるなどの兆候があったといいます。

そして2カ月前に、ついに給料の振り込みは途絶えました。

元職員:
(職員は)「帰りの交通費も足りない」と言っていた方もいるし、「家賃払えないからどうしよう」という声はいっぱい聞きます。生活に関しては、貯蓄を切り崩していくしかない。

苦しい生活を強いられているのは職員だけではありません。

入居者の親族:
(母の)髪もフケだらけだったので、お風呂どのぐらい入ってないの?って聞いたら、2週間入っていないってことだったので、心が痛みました。

入居者の親族:
“終のすみか”と思って入ったのに、正直言って失望してしまってつらい。

取材を進めると、給料の未払いは足立区の施設だけでなく、会社が運営する首都圏の他の2つの施設でも起きていたことが発覚。
運営会社は2023年7月以降、毎月赤字経営を繰り返し、総額6億円近い未払いがあったことが分かりました。

神奈川・横浜市のジャルダン本郷台の元職員は、入居者を見捨てることができず、無給で働き続けたといいます。

横浜市の施設の元職員:
情ですとか使命感というのか、この人たちを残して(去れない)。自分も見切り付けて辞めれば良かったんですけど。先の見えない状態で働いていたので、かなり精神的にも苦痛でしたね。

なぜ、ここまで経営がうまくいかなかったのでしょうか。

複数の紹介サイトを見ると、この老人ホームの入居にかかる費用は、入居一時金が約8万円、月額の利用料は10万8000円ほど。

専門家は、施設の費用が非常に安いため、経営がうまくいかなかったと指摘します。

LIFULL 介護編集長・小菅秀樹さん:
老人ホームの相場でいきますと、月々15万~20万円が相場。

相場と比べると、半額近い破格ともいえる費用。
多くの入居者が集まりそうですが、関係者によると入居率は50%ほどにとどまっていたといいます。

LIFULL 介護編集長・小菅秀樹さん:
今回の施設に関しては、かなり低額で運営しているので、入居率を90%ないし95%に持っていかないと安定した経営は難しい。

こうした現状を、社長はどう捉えているのでしょうか。
姿を消していた社長を直撃しました。

老人ホームの運営会社社長:
(Q.フジテレビです。今お話しよろしいですか?)ちょっとごめんなさい。今、法務対応してるので何も話せない。(Q.90人の入居者とスタッフがいるが受け止めは?)そこに関しても、現在、法務対応で行っている。現状としては、今色んな業者さん含め、施設で電話対応している最中ではある。そこについても1個ずつ法務対応していますので。

入居者や職員に対し謝罪の言葉はなく、「法務対応」という言葉を繰り返すばかり。
入居者がいる中、無給で業務に当たる職員について聞いてみると…。

老人ホームの運営会社社長:
(Q.職員はどれくらいまで働かないといけないのか?)そこについても、今ここでは明言できないので、基本的にはもう全部、法務対応をやっていきますので。(Q.給料が支払われていない認識は?)一応そこに対しても、今、弁護士と話をしておりまして、一日でも早くそういったもの(未払い)はなくしていきたいと思っている。(Q.支払うつもりは?)意思はあります。もう本当に法務対応で基本的には行っていくので、現状として、こうしていきます、ああしていきますというのは、明言はできない状況。

社長に説明を求めてきた元職員も、この対応には怒りをにじませます。

元職員:
法務対応という言葉が12回くらい出てきて、一体何なのという感じ。逃げてるとしか考えられない。

一方、ずさんな経営は最後まで続いています。
9月末には突然、各施設の入居者に10日で食事の提供を打ち切ると告げられ、退去が求められる事態となりました。

10日、ボランティアスタッフなどに見送られ、施設をあとにする高齢者たち。
トラックには、荷台いっぱいの荷物が積まれていました。

信頼して預けていた施設の利用者(千葉市内の入居者の家族)は「とにかく無責任。怒りよりショックの方が大きい」「うちらも素人で分からなくて、いいと思って入った。安いと思って。実際こうなるとは思いもしない」と話し、やり場のない気持ちを抱えながら、次の入居先へと引っ越し作業をしていました。

やるせない気持ちになっていたのは職員も同じです。

元職員:
ここで最後を迎えたいと言っていた方もいたので、その気持ちに応えられなかったことは、私たちもすごく悲しい。

一方、この“見捨てられた老人ホーム”の問題を巡り、国や都が対応に乗り出しています。

福岡厚労相(11日):
本事案が発生したことにつきましては、誠に遺憾であると。

足立区に施設を抱える小池都知事は…。

東京都・小池都知事(11日)
この老人ホームなどは、終のすみかと考えられるわけで、路頭に迷うなどということがあってはならない。

11日の時点で、3つの施設の入居者は全員転居が完了したということです。

※FNNでは「老人ホーム一斉退職問題」を継続取材しています。情報提供してくださる方は、ぜひこちらまでご連絡ください。

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