袴田巖さんのやり直し裁判で控訴を断念した検察側は、異例の検事総長談話を出して証拠の捏造を認定した判決に強い不満を示すとともに、それでも控訴を断念した理由などを説明しました。

検察の真意は何なのか。また、袴田さんの無罪をきっかけに再審法改正は進むのか、菊地幸夫 弁護士が解説します。

検察は判決に強い不満・不信感

検察は控訴断念を表明するとともに畝本直美 検事総長の談話も発表しました。

「5点の衣類」を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ない。判決は到底承服できないもので、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容。

このように強い不満、判決への不信感をあらわにしました。

袴田さんに対して謝罪の言葉

ただ、控訴しないとの判断に至った理由については次のように説明しています。

袴田さんが相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれたことに思いを致し熟慮を重ねた結果、控訴してその状況が継続することは相当ではないとの判断に至った。刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っている。

このように検察として袴田さんに対して謝罪の言葉がありました。

検事総長が特定の事件について談話を発表すること自体が異例のことです。

検事総長の談話の真意は?

談話で示された強い不満や謝罪をどう受け止めますか?

菊地幸夫 弁護士:
判決に対する不服というのは、検察のトップとして裁判の第一線で闘ってきた検察官に対してはそういう姿勢を示さないと内部的には示しがつかないということで気持ちは理解できる。

ただ、この裁判はどうあがいても覆すことは無理だという、それを正面から認めているということだと思う。

一方で、不安定な状況に置かれた状態が長く続いたとする謝罪の言葉があったが、(逮捕から)58年も経たないとこういう言葉が出てこないのか、ちょっと残念。謝罪の言葉は評価していいと思うが、ただこんなに長くかからないと出てこない言葉なのかなというところが残念に思う。長すぎる

検察・警察の”検証”「事実確認」は何をする?

また、この談話の中で畝本検事総長は「再審請求手続きが長期間に及んだことなどにつき所要の検証を行いたい」としています。

そして、静岡県警の津田隆好 本部長は「可能な範囲で事実確認を行い教訓とする事項があればしっかり受け止める」とコメントしました。

「検証をする」「事実確認を行う」との検察トップ、静岡県警トップのコメントですが、事実確認とは具体的には何をするのでしょうか?

菊地幸夫 弁護士:
事実確認というのは判決の中で指摘された事項がおかしい、例えば証拠のねつ造など、それを確認して、もし、それを教訓とする、改善すべきところがあれば改善するということだと思う。

ねつ造があったのか、あったとみられてしまったとしたらどういう点がより望ましかったのか、事実確認を行いたいということだと思う

再審法改正は進むか?

そして、再審法改正へ向けて再審法の問題点について日弁連や議員連盟は2点あげています。まず、証拠開示に関するルールがなく裁判官の裁量に任されていること。そして検察が抗告することができるという点です。

袴田さんに関しては2014年に再審開始決定が出されたものの、検察が不服を訴えたため審理が続き無罪が確定するまで10年かかりました。

今後、再審法はどうあるべきでしょうか? 袴田さんの冤罪事件をどう教訓にすべきでしょうか?

菊地幸夫 弁護士:
まず、証拠開示に関するルールはいま行われている裁判員裁判などは公判前整理手続きなどで細かい開示の規定があるので、そういうものを使えばいい。これはやろうと思えば早期に改正ができる。

問題はもう1つのプロセス、検察が抗告できることです。検察も裁判の当事者なので不服があれば抗告、異議申し立てができることは重要な権利。頭ごなしに「検察は抗告などしなくていい」とはなかなか言えない。

ただ、元の裁判と、もう1回始めるかどうかの裁判、もう1回やり直しの栽培、3段階を踏んでいく、下級審から上級審の間を行ったり来たりする、それをもう少しコンパクトにできないか。

簡単に結論は出ないと思うが、袴田さんの事件を教訓にしてよい方法をなるべく早く編み出すような形で改正を進めてほしいと思う。いま機運が高まったここがチャンスだと思う

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