1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われた袴田巌さん(88)を無罪とした静岡地裁のやり直しの裁判(再審)について、検察当局は8日、控訴を断念すると発表した。検察当局は9日に上訴権を放棄する方針で、無罪が確定する。検察トップの畝本直美検事総長は、袴田さんの再審請求手続きが長期化したことを最高検として検証する考えを示した。
逮捕から58年を経て、袴田さんは「死刑囚」の立場から完全に解放される。死刑囚に対する再審無罪確定は戦後5事件目。
畝本総長は談話を公表し、静岡地裁の再審無罪判決について「多くの問題を含む到底承服できないもの」と述べた。その上で「検察が控訴し、袴田さんの不安定な状況が継続することは相当ではないとの判断に至った」と控訴断念の理由を説明。「刑事司法の一翼を担う検察として申し訳なく思う」と陳謝した。検事総長が個別の事件に対する談話を発表するのは異例。
袴田さんの再審は2023年10月、静岡地裁で始まった。再審では、確定判決が犯行着衣と認定した「5点の衣類」が最大の争点となった。
5点の衣類は袴田さんが勤務していたみそ製造会社のみそタンク内で事件発生から約1年2カ月後に見つかった。付着していた血痕には赤みが残っていたとされ、弁護側は「1年以上みそ漬けされれば赤みは失われる」と訴えた。
無罪判決は、弁護側の主張に基づき、1年以上みそ漬けになった血痕は赤みが消えて黒褐色化するとした。事件から約2カ月後に逮捕された袴田さんが5点の衣類をみそタンクに入れていれば赤みは残らないはずで、犯行着衣ではないと判断。発見に近い時期に捜査機関がタンクに隠す捏造(ねつぞう)をしたと指摘した。
さらに、袴田さんの実家から見つかった5点の衣類の一つであるズボンと同じ生地の切れ端と、自白調書も含めて、捜査当局による三つの捏造があったと認めた。
事件は66年6月30日未明に発生。清水市のみそ製造会社の専務一家が殺害され、静岡地裁は68年に袴田さんに死刑を言い渡し、後に確定した。しかし、第2次再審請求審で再審開始決定が出て確定し、静岡地裁が24年9月26日、無罪判決を言い渡していた。【安元久美子、北村秀徳、丘絢太】
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