58年にわたった闘いに、終止符が打たれた。一家4人を殺害した罪で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審無罪判決について、検察当局は8日、控訴を断念すると発表した。「喜びしかない」――。袴田さんはようやく「真の自由」を手にすることになるが、冤罪(えんざい)に苦しめられた事実が消えることはない。袴田さん側は、改めて捜査機関に「反省」を求めた。
検察当局の控訴断念の発表を受け、袴田さんの弁護団は8日夜、静岡市内で記者会見を開いた。
袴田さんの姉秀子さん(91)は晴れやかな表情を浮かべ、「これで一件落着、裁判は終わる。喜びしかありません。長い間お世話になりました」と笑顔で話した。
袴田さんは1966年、静岡県清水市(現静岡市)のみそ製造会社の専務一家が殺害された強盗殺人事件で、30歳の時に逮捕された。取り調べでは、県警の捜査員から「意気地のねえ弱虫」「悪いと思ってんのか、おまえは」と迫られ、「自白」。最高裁まで争ったが、死刑が確定した。
2度目の再審請求で、静岡地裁が2014年に再審開始を決定。袴田さんは48年ぶりに釈放され、曲折を経て、静岡地裁が9月に再審無罪判決を言い渡した。
判決は、捜査当局による「三つの捏造(ねつぞう)」を認め、裁判長は、体調が優れない袴田さんに代わって再審に出廷し続けた秀子さんに「長い時間がかかったことは、非常に申し訳ない」と謝罪。袴田さん側の完勝だった。
一方、8日に出された畝本直美検事総長の談話は、謝罪の言葉を並べつつ、判決理由については承服できないとした。
弁護団事務局長の小川秀世弁護士は会見で「非常に納得がいかず、けしからんと思った。反省がない」と批判。「証拠を隠したり捏造したりということが非常にたくさんあった。(捜査の)最初の手続きから検証が必要だ」と訴えた。
袴田さんは超長期の拘禁で精神をむしばまれ、意思疎通が難しい状態だ。
秀子さんは再審で「巌はいまだに妄想の世界にいる。どうか、巌を人間らしく過ごさせていただけますようにお願いします」と意見陳述した。袴田さんは自宅の階段を一人で上り下りすることができなくなり、リフトや周囲の介助が必要だという。
無罪判決後に静岡市で開かれた報告会に姿を見せた袴田さんは「無罪勝利が実りました。待ちきれない言葉でありました」と喜んだ。弁護側は検察側に控訴断念を強く迫ってきた。検察側が控訴すれば、袴田さんの精神状態が更に悪化するとの懸念があったからだ。
秀子さんは会見で「巌は出かけていたので、帰ってきたら(控訴断念を)伝えようかなと思います。(無罪判決後は)なんとなく生き生きしています」と語った。【丘絢太、最上和喜】
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