1966年に当時の静岡県清水市(現在の静岡市清水区)で一家4人が殺害された強盗殺人放火事件のやり直し裁判で、静岡地裁は9月26日、袴田巖さんに対して無罪を言い渡した。また、裁判所は捜査機関による「3つのねつ造」を認定した。

今回の判決では、自白調書と5点の衣類、さらにズボンの切れ端の3つをねつ造と認定した。

福島流星 記者:
まず1つ目は「自白した調書」。國井裁判長は「袴田さんが逮捕された当時、1日平均12時間以上に及ぶ長時間の取り調べで繰り返し袴田さんに謝罪を求め、さらに犯人と決めつけ自白をせまった」と説明した。

そのうえで「罪を認めた袴田さんの自白は強制・拷問または脅迫によるものだ」として、作成された調書は「実質的にねつ造だ」と認定している。

2つ目は「5点の衣類」。捜査機関のねつ造が認められるかどうか最大の争点だったが、國井裁判長は「長期間みそ漬けにされた血痕の赤味は黒褐色化する。赤味は消える」と認定した。

そして、袴田さんは衣類が発見された当時は逮捕され裁判に出廷していたのでタンクに仕込むことは不可能、つまり「発見から近い時期員捜査機関が血痕をつけるなど加工してタンク内に隠した」との見解を示している。

3つ目は”5点の衣類”のうちのズボンの切れ端だ。これは捜査員が袴田さんの実家を訪れた時にタンスの中から発見している。

検察は”5点の衣類”に含まれるこのズボンと一致したので「”5点の衣類”は必ず袴田さんのものだ」とこれまで自信をもって主張してきたが、國井裁判長は「この切れ端も実家を訪れた直後に捜査員が発見している経緯から、捜査機関がねつ造した」、つまり「タンスのなかに切れ端をいれたのは捜査機関だ」とした。

-ねつ造についての裁判所の指摘を、どう感じましたか?

橋下徹 弁護士:
ねつ造や加工などここまで(判決で言及することは)聞いたことがない。民主国家の捜査機関として全否定されている感じ。しかも、検察官もそれを見抜けなかったわけで、検察は「捜査機関のやってきたことは問題ない」でずっと来たわけだ。僕は死刑は賛成論者だが、死刑制度についても考え直さないといけないと思う。白昼行われたような犯罪には僕は死刑必要論を唱えるが、そうではない事件において、こんなこと(証拠や自白調書のねつ造)が行われる日本の捜査機関ということであれば、ちょっと考えないといけない。怖くて仕方がない。とんでもないことだ

ジャーナリスト・鎌田靖 氏:
今回の再審裁判は本来なら”5点の衣類”の赤味に絞って審理を行うこともありえた。

ところが検察側はそれに絞らずに有罪の立証のポイントをさらに広げて、全体的に有罪を立証しようと、すべての争点で争うことになった。その結果 裁判所は「ねつ造」という言葉を、”5点の衣類”の赤味だけではなく、「調書もねつ造だ」と指摘した。

「この調書は信用性がないから証拠になりませんよ」という表現でもいいのに、國井裁判長は「実質的なねつ造」と踏み込んだ。「捜査機関が袴田さんを犯人に仕立て上げた」という認定をされていると思う。

ものすごく強い捜査機関批判だと思う。これだけ検察が立証しようとした争点についてすべて判断したんだから、「もうこのへんであきらめなさいよ。控訴しない方がいい、すべきでない」という(裁判所の)メッセージさえ感じる

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