「1億円ぐらいは紙切れみたいなもんや私にとっては」

自由奔放な生き方で“紀州のドン・ファン”と呼ばれた資産家・野崎幸助さん(当時77歳)が、自宅で死亡しているのが見つかった事件から6年。

覚せい剤を摂取させて殺害した罪に問われている元妻の須藤早貴被告(28)が初公判で語ったのは…。

須藤早貴被告:私は社長(野崎さん)を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。私は無罪です。

起訴内容を否認し、無罪を主張した。

■「私は殺していません」とはっきりと無罪を主張

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午前10時40分に始まった初公判は、午後4時すぎに終わった。

12日、須藤早貴被告は、黒のノースリーブのワンピース姿で出廷した。白いマスクを着けていて、こちらから表情をうかがうことはできなかった。

弁護人から起訴内容が書かれた紙を渡されると、髪をかきあげるような仕草をみせ、起訴内容が読み上げられている間は、冷静に聞いていた印象だった。

裁判長から「黙秘権がある」と説明を受けている時は、うなづきながら聞いており、その後の検察側の冒頭陳述の際は、須藤被告はメモを取りながら聞いている様子もあった。

夫だった野崎幸助さんを殺害した罪に問われている事件について、これまで須藤被告は何も語ってこなかったので、その発言に注目されていた。

裁判長から起訴内容について間違いがないか問われると、1拍少し間をおいてから、「私は殺していません」と声は小さいながらもはっきりと無罪を主張した。

事件から6年たってようやく始まった裁判では、これまで出ていなかった新たな事実も明らかになった。

■裁判の注目点は大きく3つ「動機、殺意」「覚醒剤の入手方法」「摂取方法」

12日の初公判、元妻の須藤被告は無罪を主張したが、検察側は「証拠を残さない完全犯罪。ばく大な遺産を得るために殺害」と主張している。

今回の裁判の注目点は大きく3つある。

この裁判は“状況証拠のみ”しかないのだ。

まず、動機、殺意について離婚問題をきっかけに犯行に及んだのかどうか。

つぎに覚醒剤の入手方法ついて、検察側は「密売人から購入した」と見立てを立てているが、これをどう立証していくのか。

そして覚醒剤の摂取方法について、野崎さんには注射痕はなかったとして、例えば飲食物に混入させたのか、カプセル状のものなのか、いかにして野崎さんが摂取することになったのかを立証できるのかがポイントになる。

検察側は状況証拠を積み重ねているとするが、番組コメンテーターで弁護士でもある泉房穂さんは「立証はかなり難しいのでは」と話す。

泉房穂さん:あまりにも証拠関係が薄すぎますよね。逆に言えば時間かけたけども、ほとんど物的証拠的ではない中で、そういう意味ではかなり遠い所の背景事情で立証しようとしていますから。ちょっと悩ましい事案ですね。私が弁護士で、刑事弁護をした時に、『絶対やってるに違いない』と思われる方が、実際やってないケースもあるので。これまでの戦後の歴史を見ても、死刑囚の方が実は冤罪というケースが何例もあるので、そのあたり若干引いたところで、慎重な目もいると私は感じます。

■被告の検索履歴には「完全犯罪」 「証拠にはなるが…」と菊地弁護士

12日の初公判では検察側の主張の中で、さらに注目すべきポイントがあった。

検察側の主張では、被告の検索履歴について言及があったのだ。

「完全犯罪」、「老人 死亡」、「トリカブト殺人事件」、「薬物」、「妻に全財産残したい場合の遺言書の文例」、「相続税 海外口座」などと検索した履歴があったとしている。

さらに覚醒剤の入手ルートについて、覚醒剤密売サイトから致死量の3倍以上(3グラム)を注文し、和歌山で覚醒剤と思われるものを入手したと主張した。

こういった検索履歴というのは証拠となるのだろうか。

菊地幸夫弁護士:なり得ます。ただ、それがどれだけの重要な証拠なのかどうかというのはまた別です。裁判のポイントとして3つありますが、『動機など』と『覚醒剤の入手方法』と『どうやって飲ませたのか』っていう。この検索履歴は『動機、殺意』これに関して、ズバリじゃないですけれども、ある程度の立証の力はあると思います」
「問題は『動機』と『摂取方法』。これは被告人がしゃべらないとなかなか立証が難しい。おそらくしゃべらない。そうすると『覚醒剤の入手方法』なんですね。これは、もし密売人が出てきて、『はい確かにこの人に私が売りました』と法廷で指さしたら、これは大きな証拠になるんですよ。だからそこまでいけるかどうかってが大きなポイントだと思います。

■検索履歴に関して弁護側は「覚醒剤で殺害しようとふつう思うのか」と反論

ここで裁判を取材した樋口記者に話を聞く。

検索履歴について、弁護側からの指摘はあったのだろうか。

樋口諒記者:検索履歴について弁護側からは特に指摘はありませんでした。ただ、検索履歴に対しての直接的な反論というわけではないですが、弁護側は『そもそも覚醒剤を大量に飲ませて殺害という完全犯罪をする発想になるのか』また、『殺害方法として覚醒剤を摂取させようと、普通は思わないのではないか』という主張をしていました。

覚醒剤の摂取方法についての言及はあったのだろうか。

樋口諒記者:裁判の中で、『野崎さんが口から覚醒剤を摂取して中毒になり死亡した点については争いがない』と裁判長から指摘がありました。あす以降28人の証人尋問が予定されていて、その中には解剖医や薬学者が含まれているということです。そこで覚醒剤を摂取してからどれくらいの時間がたつと影響が出始めるのかといった尋問が行われます。検察側はこうした尋問から、野崎さんが覚醒剤を摂取した時間には須藤被告と2人きりだったということを立証していくと主張しています。

菊地幸夫弁護士:密売人は証人のリストには入ってないんでしょうか?

樋口諒記者:証人に関しては、裁判の日程の中で、いつどの証人が出てくるということは、いま分かっていません。私たちもそこは注目しています。

裁判は最大25回の審理、28人の証人尋問が予定されている。判決は12月12日に言い渡される。

(関西テレビ「newsランナー」2024年9月12日放送)

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