奈良県宇陀市が市議会6月定例会に提出した農業委員(定数12)の人事案が市議会の同意を得られず、委員不在の状態に陥っている。委員会の構成に不可欠な「中立委員」1人の新任に市議会側が反対したため、全員の任命が棚上げされてしまったからだ。次回の定例委員会は8月13日の開催予定だが、現状では解決の見通しは暗く、委員不在で定例委員会を開けないという前代未聞の事態を迎える恐れが強まっている。
農業委員会は農地の売買や賃借、転用の許可などを担う行政委員会で、委員の任期は3年。自治体は農業団体などの推薦や公募を経て議会に委員の人事案を提出し、議会の同意を得て首長が任命する。委員には、委員会と利害関係のない中立委員が1人以上いる必要がある。
市は委員の7月19日の任期満了を前に、市議会に人事案を提出。6月25日の本会議で採決された結果、11人分は同意されたが、中立委員案だけは賛否が5対5(他に退席1)となり、議長決済で不同意とされた。
問題は7月上旬の市議会全員協議会でも話し合われた。だが、不同意の理由説明を求める市と、「確信を持ってなされた重い判断」とする不同意側市議らの議論がかみ合わず、解決には至らなかった。そのまま前任者の任期が切れて委員不在の状態を迎えた。
農業委員会法は、新委員が決まらない場合の対応を「後任の就任まで前任者が任期満了後も職務を行う」と定める。地方農業委員会の全国組織「全国農業会議所」も国と相談の上で、人事案を差し替えるという解決策や、他の同意が得られる候補者を任命した上で(同意を得られない新委員の任命はいったんあきらめて当面は)前任委員を継続させるという臨時的な対応策を示した委員会運営指針を策定している。
農業会議所によると、近年は委員人事案が議会の同意を得られなかったケースは全国で散見されるが、委員会が開催不能に陥った例は過去にないという。担当者は「委員会の設置は法律で定められている。自治体は委員会の開催に向けて最大限に努力してほしい」と語る。
ただ、市は現段階で前任者から続投の承諾を得られていない。市農業委員会の河野昌幸事務局長は「人事案を差し替えるにしても、再び反対される恐れがあっては次の手続きに進めない。まずは議会が反対理由を明らかにしてほしい」と語る。
一方、多田与四朗議長は「市は指針に則して誠実に対応すべきだ」と求める。両者の認識は「委員会の空白は許されない」で一致していながら、言い分は平行線をたどる。
委員会事務局は「8月開催は厳しくなってきた」と見通す。市の定例委員会は毎月1回開かれ、毎回10件程度の案件を処理している。もしも開催できなければ、市の農政などに与える影響は甚大だ。2022年秋に日本で初めて「オーガニックビレッジ宣言」をした市が、不名誉な「日本初」の称号を手にしないためにも、早急な対応が求められている。【望月靖祥】
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