清閑亭の裏庭に増築された調理室=2024年3月9日、本橋由紀撮影

 神奈川県小田原市の民間提案制度によって3月末に活用が始まった市所有の国登録有形文化財「清閑亭」(同市南町)について、市が提案募集の条件を民間業者の選定後に変更していたことが判明した。国史跡の敷地内での増築を業者の要望で認めていた。史跡の景観を変えただけでなく、選定の公正性や透明性が疑問視されている。

 市は2021年3月、民間業者から清閑亭を有効活用する案の募集を開始。市と民間業者が対等に協議して事業化する民間提案制度を用いた。9者から応募があり、市職員6人が審査。市は7月に飲食店を運営する市内の民間業者を選定した。

 募集時の条件は、国指定史跡の敷地のため、増築や掘削などの史跡に影響を及ぼす行為は行えないというものだった。しかし、業者選定後、業者側が直火(じかび)を使うため、木造の主屋に影響がないように調理室の増築をしたいと要望。市は文化庁や県との協議などを経て、「史跡に影響を及ぼさないもの」を新たな条件に増築を認めた。

 増築された調理室は木造平屋建て(延べ床面積約23平方メートル)。主屋の裏庭に建てられ、むき出しのガスボンベや大きな排気ダクトが清閑亭裏の景観を変えた。

 市は「掘削したのは25センチ。以前に70センチの掘削をしており、史跡に影響はない」と説明。調理室も「朽ちるまで使う予定」とし、業者との契約が解除されても現状復帰しないという。民間業者は毎日新聞の取材に「本格的な和食を作るためには電磁調理器ではなく、直火が必要だった」と説明した。

 市職員のみで外部の文化財の専門家が不参加だった業者選定について、毎日新聞は情報の公開を求めたが、大半の資料が黒塗りだった。市の担当者は「提案内容のほとんどが提案者のノウハウのため明らかにできない」と説明しており、公正性や透明性の検証は困難な状況だ。

 守屋輝彦市長は8日の定例記者会見で「(民間提案制度は)仕様書を示してやってもらうのではなく、協議の中でよりよい物を導くもの」と述べ、条件変更は正当で、今後も同様のことがあり得ることを示唆した。

 飲食会社は3月25日、清閑亭を利用した料理店を開店。しかし、2月下旬から3月初旬に営業許可を取らずに「お披露目会」と称した飲食提供を有償で行い、県から食品衛生法違反の疑いで厳重注意を受けた。

 清閑亭は1906年に黒田長成侯爵(1867~1939年)の別邸として建てられた。数奇屋風の造りで平屋と二階屋が連なる。【本橋由紀】

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