会計検査院=東京都千代田区で、柴沼均撮影

 会計検査院が15日に公表した報告書では、自治体が担う多くの事務手続きでマイナンバーによる「情報照会」が利用されていない現状が明らかになった。利用実績がないのはどういったケースなのか。報告書は具体的な事例を挙げている。

 その一つは、指定難病の医療費助成を巡る新潟県の対応だ。県は申請を受けると、患者側の経済力を確認するため地方税の納税状況などを照会する。その際、マイナンバーを使えばネットワークシステム経由で市町村から必要な情報を入手できるが、2022年度に行った約1万3700件の確認業務の全件で「情報照会」を行っていなかった。

 このため、患者側はわざわざ手数料を支払い、課税証明書の発行を受けていたという。新潟県の担当者は取材に「必要な情報が紙とデータに混在し、マイナンバーを利用すると逆に事務量が増えてしまう状況だった」と事情を説明した。

 北九州市では、精神障害者保健福祉手帳の更新に伴う年金情報の確認業務が22年度に2387件あったが、「情報照会」の利用実績はなかった。「マイナンバーだと十分な情報を得られない」との誤解があり、日本年金機構への文書照会を続けていたという。

マイナンバーによる「情報照会」の仕組み

 行政のデジタル化に詳しい武蔵大の庄司昌彦教授(情報社会学)は「マイナンバーを使った業務プロセスへの転換が進んでいないことが、検査院の報告書で明らかになった」と話す。

 そのうえで「デジタル化自体が目的ではなく、人口減少社会に向けて自治体の業務負荷を下げることこそが目的だ。申請件数が多く負荷の大きい業務でマイナンバーを活用できているかが大事だ」と指摘。「自治体は主体的に業務改革に踏み込まなければいけないし、国も手順や先進事例をより具体的に示すなど、自治体を強く後押ししなければならない」と語った。【渡辺暢】

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