訪日客が置き去りにしたスーツケースのプランターで栽培したミニトマト=2023年6月23日(「庭のホテル 東京」提供)

 政府観光局(JNTO)が15日発表した2024年4月の訪日外国人客数(推計値)は304万2900人となり、2カ月連続で300万人超となった。訪日客が増える中でホテルが頭を悩ませているのが、客が部屋に置き去りにするスーツケースだ。一方で、そんな不用品が活躍しているホテルがある。

 「これはレモングラスやスペアミント。ハーブティーを作れないかなと思っている。こっちはローズマリー。お肉と一緒に焼いちゃうか」

 JR水道橋駅から南東に約200メートル。緑あふれる庭園が魅力の「庭のホテル 東京」(東京都千代田区)の総支配人、海老沼悟さんが案内してくれたのは、ホテル屋上にある菜園だ。ハーブや野菜などを無農薬で育て、レストランで宿泊客に提供している。特徴的なのはプランターで、訪日客が客室に捨てていったスーツケースを加工したという。

訪日客が置き去りにしたスーツケースで栽培したメロン=「庭のホテル 東京」提供

 きっかけは22年秋、ホテルの庭で集めた大量の落ち葉から腐葉土を作ったことだ。ホテルの朝食の卵料理で使った卵の殻で石灰を作り、コーヒーの仕入れ先から譲ってもらった麻袋に土を入れ、野菜の種をまいたが、保水性や耐久性に難点があった。「何かプランターに活用できるものはないか」と館内を探したところ、廃棄物置き場に積まれたスーツケースに目が留まった。

 野菜は種類によって根の張り方が違う。「根っこのイメージに合わせて、スーツケースを縦に使ったり、横に倒して使ってみたり。丈夫だし、軽いし、キャスターが壊れていなければ運びやすい」。野菜を育て始めた23年は、ナスやトマト、メロンなど約25種類を栽培した。宿泊客からの評判も上々だ。

 ホテルは09年開業。「美しいモダンな和」をコンセプトに、オープン当初から訪日客の人気を集める。円安を背景に、現在では宿泊客の8~9割を外国人客が占めるという。

 スーツケースの置き去りは月に1、2個。旅行中に壊れ、処分に困ってしまったり、日本で大きなスーツケースに買い替えて古いものを置いて帰ってしまったりして、客室に捨てられる。忘れ物だった場合、一定期間はバックヤードで保管する必要があるほか、処分費用は1個1000円前後かかるため、ホテル業界では悩みの種の一つとなっている。

 庭のホテルでは今年2月、屋上菜園の取り組みを拡大させ、新たに養蜂も始めた。ミツバチの力を借りて野菜の受粉を促し、採れた蜂蜜も料理に活用したい考えだ。海老沼さんは「地域や学校などとつながり、活動の輪を広げていきたい」。ホテルならではのエコな資源活用は、少しずつ広がりを見せている。【佐久間一輝】

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