日銀の植田和男総裁は31日の記者会見で、今後の金融政策運営について「経済・物価見通しが実現していくとすれば、政策金利を引き上げていく」と述べた。米国の経済指標の弱さなどにより不安定になった金融市場は「少しずつ安定を取り戻した」と評価した。米大統領選後の市場動向などを注視しつつ、利上げ時期を見極める。
日銀は同日の金融政策決定会合で、政策金利とする無担保コール翌日物レートを0.25%で据え置くと決めた。7月会合で0.25%に引き上げると決めて以来、2会合連続で現状維持とした。市場予想通りの結果で、記者会見では今後の金融政策運営に関する質問が相次いだ。
日銀は8月以降、追加利上げに向けて米国など海外経済の状況や市場の動向を見極めるための「時間的な余裕はある」と繰り返してきたが、植田総裁は「今後、使わない」と言明した。
12月の次回会合での利上げはありうるかとの質問に対して、植田総裁は「データを総合して毎回の決定会合で判断する」と述べ、利上げの可能性を排除しなかった。具体的な利上げ時期は「予断を持っていない」とも指摘した。
米国など海外経済について「少し霧が晴れつつある」と語った。米国の経済統計は「ここ1カ月間くらいかなり良いものが続いている。良い動きが続けば、普通のリスクと同等になる」と話した。市場が安定してきたことも踏まえ「時間的余裕という表現は不要になると考えた」と説明した。
市場では8月以降、早期の追加利上げ観測が後退していた。QUICKによる外国為替市場の関係者への調査では、8月5日〜7日時点では年内の追加利上げはないと予想する回答が46%だった。9月9日〜11日の調査では56%にまで上昇していた。
市場参加者の間では、植田総裁が「時間的余裕がある」という表現を使わなかったことから、日銀が想定よりも早く利上げに動くとの思惑が広がった。市場では次回12月か2025年1月に追加利上げに動くとの見方が強まった。31日の外国為替市場で円が買われ、一時1ドル=151円台後半に上昇する場面があった。
日銀の政策運営を巡ってはなお不透明感が残っている。植田総裁は次期米大統領の政策運営などを念頭に「米国の所得も消費も強いという経済が続いたとしても、政策によっては新たなリスクが出てくるのは言うまでもない」と指摘した。
国内で27日投開票の衆院選で自民党・公明党で過半数を確保できず、政権運営が不安定になっている。「政策的に大きな動きが出されれば(物価に)影響する可能性があり、見通しを適宜修正していくことになる」と言及した。
日銀内部では米国経済がソフトランディング(軟着陸)する見通しが強まることなどを前提に、12月、25年1月、3月の会合のどこかで追加利上げを判断できるとの意見がある。
円安が進めば輸入物価の上昇を通じて物価高を一段と深刻にさせる恐れがある。植田総裁は「過去と比べて為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている点には引き続き留意する必要がある」と分析した。
日銀は過去25年間の非伝統的な金融政策を総括する「多角的レビュー」のとりまとめを進めている。植田総裁は12月の会合でレビューについて議論したうえで作業を終え、会合後に公表することを明らかにした。
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