日銀は12日、地域の中堅・中小企業にも賃上げが広がっていると分析したリポートを公表した。価格設定などの企業行動が変化しつつあり「今後も継続して賃上げを実施することが必要との認識も深まっている」と説明した。一方で、原資の裏付けを伴わない防衛的賃上げの存在も指摘した。

地域経済報告(さくらリポート)の別冊として公表した。4月後半から6月にかけて全国の日銀の本支店などで地場企業や経済団体にヒアリングした結果をまとめた。

リポートでは「地域・業種・企業規模を問わず、賃上げの動きに広がりがみられている」と分析した。物価高や人手不足を背景とした賃上げが多いという。「物価高が長期化する中で従業員の生活を守ることを目的に賃上げを実施」(食料品、下関)している事例や「流出が加速している若年層をなんとかつなぎとめたい」(卸売、神戸)といった声を紹介した。

賃上げ分を価格に転嫁する動きの実態も調査した。「賃上げコストの価格転嫁は取引先や消費者の理解を得られない」との声も聞かれたものの、日銀は価格転嫁の実施や検討の動きに「広がりがみられている」との見方を示した。

一方で、賃上げ原資が確保されないまま、防衛的に賃上げする企業の事例も浮かびあがらせた。「収益が悪化しているが、人材係留の観点から防衛的に前年と同程度の2%台半ばのベースアップ(ベア)を実施せざるを得ない」(鉄鋼、青森)といった声を紹介した。賃上げの継続性を確保しようと、設備投資やM&A(合併・買収)に踏み切る動きも起きているという。

連合が発表した春季労使交渉の最終集計の結果によると、2024年の平均賃上げ率は5.1%と33年ぶりの高水準となった。ただ、連合の集計では規模が大きい企業が多く、中小企業などへの波及状況が読みにくいとされる。日銀は幅広くヒアリングを実施することで、賃金と物価の相関関係の全体像を把握しようとしている。

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