国内でスタートアップの倒産が増えている。業歴10年に満たない企業の倒産は12年ぶりの多さとなり、倒産全体に占める割合は最高になった。日本経済の底上げに欠かせない新興企業をどう増やすのか。企業の新陳代謝を促す取り組みは総力戦の様相を呈している。

帝国データバンクによると、業歴10年未満のスタートアップの倒産(法的整理)は2023年度で約2700件と前の年度に比べ3割増えた。倒産全体(8800件超)に占める割合は30%を超え、比較可能な2000年度以降で最高になった。

業種ではサービス業や小売業が多く、新型コロナウイルス禍の緩和マネーで資金を調達したものの、その後の競争激化で淘汰が進んだ。空飛ぶバイクを開発していたA.L.I.Technologies(テクノロジーズ)のように、その分野のけん引役を期待されていた企業もあった。帝国データの内藤修課長は「人知れず廃業するケースもあり、スタートアップの倒産は統計以上に多いはずだ」と話す。

政府が10万社のスタートアップ創出の目標を掲げるなか、当然すべての新興企業が生き残れるわけではない。米国では新型コロナ禍前で開業率と廃業率がいずれも10%近くで推移していた。成功と失敗が混在する「多産多死」を許容できる社会だからこそ、数百社のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)が誕生したとも言える。

企業の新陳代謝を高めるには、日本でも倒産の増加に一喜一憂せず、間断なく新たな芽を育てていく必要がある。ニッセイ基礎研究所の吉田資主任研究員によると、日本国内の開業率は22年で3.9%となり、2000年以降で最も低い水準になったという。10万社の創出だけでなく、その先にユニコーン100社という目標を見据える日本にとって、これ以上の停滞は許されない。

こうしたなかでスタートアップ界隈(かいわい)で話題になっている資金調達手段がある。日本政策金融公庫(日本公庫)の創業向け無担保・無保証融資だ。これまでは創業資金総額の10分の1以上の自己資金があることなどを条件に最大3000万円を融資したが、4月からは自己資金などの条件をなくし限度額も2倍超の7200万円に引き上げた。

創業向け融資には、ベンチャーキャピタル(VC)などに限らず最近はメガバンクなどもこぞって力を入れている。国が100%出資する日本公庫が、未知数のスタートアップに大胆に資金供給する必要がどこまであるのかは議論もあるだろう。それでも制度拡充に踏み切ったのは、「スタートアップ支援は国を挙げての総力戦になる」(日本公庫の森本淳志・創業支援部長)と危機感を強めているからだ。

日本公庫は前身のひとつである中小企業金融公庫が、創業期のソニーや京セラなどに融資した歴史があり、今で言うスタートアップ支援の先駆けだった。近年では次世代エネルギー技術と言われる核融合発電のスタートアップ、EX-Fusion(エクスフュージョン)に融資し、その後の民間資金の呼び水になった。テクノロジーの進化が激しく、大手銀ですら融資の判断に迷うことが多い今こそ、大きなマネーの流れをつくる前の一滴が必要になる。

もちろん民業圧迫といった副作用への懸念はあり、総力戦に打って出たとしても機関投資家の資金力などで勝る米国のようになるのは難しいかもしれない。それでもスタートアップ界隈ではチャレンジを促す制度の拡充を歓迎する声は多い。日本は起業への関心が低いと言われてきたが、挑戦や失敗への許容度が低い社会全体の問題でもある。アニマルスピリット(野生)を試されているのは、起業家だけではない。

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