建設中のシエリアタワー大阪堀江=大阪市

新築マンションの価格上昇が続いている。需要が高まっているのは、高価格だが職住近接となる〝駅チカ〟などの都心部の物件だ。夫婦が働きながら子育てをしやすいメリットがある。郊外で大規模開発された、廉価だが交通の便では見劣るマンションは売れなくなっている実態がある。関西でも都心部で開発できる土地が限られていく中、経営基盤がしっかりしている電鉄系などのグループの不動産会社は、首都圏や海外で事業拡大する動きを強めている。

バブル期以来の高値

「駅に近接し、価格面でも魅力があるなど好条件をそろえなければ、新築マンションはもう売れなくなっている」

関西を基盤とする中堅の不動産会社関係者は、近年の市場動向をこう明かす。

不動産経済研究所の調査によれば、令和5年の近畿2府4県の新築マンション1戸当たりの平均価格は前年比0・7%増の4666万円で、6年連続の上昇となり、バブル期の平成3年(5552万円)以来の高値となった。1平方メートルあたりの単価は79万円で、11年連続の上昇となった。

地域別では、京都市が前年比15%増の5720万円、神戸市が同27・5%増の4958万円だった。大阪市は9・7%減の4204万円だったが、これは「1戸あたりの規模が小さいのと、令和5年は目立った高額物件の発売がなかったため」(不動産経済研究所大阪事務所の笹原雪恵所長)だ。6年は、JR大阪駅北側の再開発地域「うめきた2期(グラングリーン大阪)」でのタワーマンションの発売などにより、再び上昇するとみている。

郊外より駅チカに需要

新築マンションの価格上昇は、近年の資材価格の高騰なども一因となっている。ただ、見逃せないのは新築マンションを購入する、主に若い世帯の生活スタイルの変化だ。

かつて、主に夫が企業に勤めに出て、多くの妻が専業主婦、または住まいの近くでパートなどの短時間労働を行っていた時代においては、より廉価で、鉄道駅まではバスなどで通う不便はあるものの、都心に比べて自然も多くのびのびと暮らせるイメージがある郊外型のマンションなどに需要があった。

しかし笹原氏によれば、「現在は夫婦が共に正社員などで長い時間働くことが主流になっており、子育てと仕事を両立するために、通勤が便利な駅に近い優良な物件でなければ売れない」状況になっているという。いわゆる夫妻で高収入を得ている〝パワーカップル〟がマンションの購入主体となっているためで、1戸当たりの単価も上昇しているというわけだ。

このような状況は、新築マンションの発売戸数からも鮮明に見て取れる。郊外などに建設された、大規模マンション群などの需要が高かった平成8年に4万4430戸を記録した近畿2府4県の新築マンションの発売戸数は、令和5年は1万5385件となり、実に3分の1に激減している。新築マンションの発売戸数の減少は、少子高齢化も「要因になっているだろう」(笹原氏)とみられる。

総務省が昨年4月に発表した人口推計(令和4年10月1日時点)によれば、近畿2府4県はいずれも前年より人口が減少し、高齢者層の割合が高まる傾向が鮮明になっている。新築マンションは、子育て世代や、今後子育てを検討する若い夫婦などが主な購入層とされ、そのような人口をめぐる状況が、販売数の減少をもたらしているとみられている。

企業間競争さらに加速

しかし、関西の都心部では優良な物件を建設できる土地が限られている。その中で関西を基盤とする不動産会社が首都圏や海外などで事業展開を加速する傾向が鮮明になっている。中でも笹原氏が注目するのが「電力や電鉄など、グループ全体の経営基盤に強みを持つ企業」だ。

関電不動産開発(大阪市)の藤野研一社長も2月下旬、東京・渋谷で新オフィスビルの開業について会見し、関西以外の地域においても事業を強化する必要があるとの考えを強調。「やはり首都圏、海外事業を伸ばしていかないと、1兆1千億円の資産規模は達成できない」と述べた。

同社は現在、都内の一等地である南麻布でタワーマンション建設を計画しているほか、横浜市でも約500戸規模の大規模マンション開発を計画している。さらに米国や東南アジアなど、海外でのマンション開発も推進している。

ほかにも、京阪電鉄不動産(同)は名古屋や沖縄、北海道などでタワーマンションの開発・販売を進めている。親会社の京阪ホールディングス関係者は「関西だけでは市場が限られる一方、首都圏中心部は価格が高騰しすぎており、首都圏の周辺部や、地方の主要都市での事業展開を進めている」という。

阪急阪神不動産(同)も「関西に次ぐ重要エリアは、やはり首都圏になる」としている。同社は2月にも、インドネシアでの新たな住宅分譲事業を発表するなど、東南アジア各地での住宅事業を展開している。

逆に、他地域から関西に進出する不動産会社も目立ち始めているという。今後も、付加価値の高いエリアをめぐり、マンション開発を手がける不動産会社間の競争がさらに加速しそうだ。(黒川信雄)

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