米ノースカロライナ州の「ホンダエアクラフトカンパニー」の工場を視察する岸田文雄首相(右から2人目)=12日(共同)

岸田文雄首相は12日(日本時間同)、訪問先の米ノースカロライナ州でトヨタ自動車が建設中の車載用電池工場を視察した。11月の大統領選でのバイデン大統領の再選に加え、現地生産や雇用を重視するトランプ前大統領が返り咲く「もしトラ」にも備えて日本の貢献をアピールした。首相は一連の訪米日程で、覇権主義的な動きを強める中国を念頭に日米やフィリピンを加えた3カ国の連携強化に取り組んだ。

「今回の視察は日本企業がいかに米国経済に貢献しているのか、自ら確認するとともに発信する機会にしたい」

首相はトヨタ工場の視察に先立ち、記者団に語った。工場の投資額は約139億ドル(約2兆1千億円)、雇用は5千人超になる見込みだ。

首相はホンダの小型ビジネスジェット機を手がける米子会社「ホンダエアクラフトカンパニー」の工場も訪れた。首相周辺は同州について「日本の投資をアピールできる場所だ」と解説する。

同州は、大統領選で民主党と共和党の勢力が拮抗する「揺れる州(スイング・ステート)」でもある。2020年の前回大統領選ではバイデン氏が接戦でトランプ氏に敗れており、バイデン氏は同州の情勢を重視しているとされる。バイデン氏は電気自動車(EV)普及などの環境政策に力を入れているだけに、トヨタの電池工場はこうした動きにも対応している。

雇用を重視するのはトランプ氏も同様だ。17年1月にはトヨタがメキシコで着手した新工場の建設計画を「あり得ないことだ」と批判し、米国での生産を求めたこともある。官邸幹部は「バイデン氏とトランプ氏のどちらかに肩入れをするわけではないが、日本の投資が党派を超えて米国民に喜ばれているのは事実だ」と強調する。

日本企業の米国進出を巡っては課題もある。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収について、トランプ氏は「私なら即座に阻止する」と批判を浴びせた。バイデン氏も支持基盤の労働組合に配慮し、「国内で所有、運営される米国の鉄鋼企業であり続けることが不可欠だ」と表明している。

首相は10日(同11日)、バイデン氏と会談後の共同記者会見で「米国政府において法に基づき適正に手続きが進められると考えている」と述べた。だが、大統領選に向けて政争の具となる懸念はくすぶる。

訪米日程を終えた首相は14日に政府専用機で日本に帰国する。(米ノースカロライナ州ローリー 永原慎吾)

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