奈良市役所の名物になっている平城京の復元模型について、奈良文化財研究所(奈文研)がより間近で観察できるデジタルコンテンツに編集し公開した。iPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)向けのアプリがあれば、模型の建物を見上げたり、上空を自由に動き回ったりして楽しめる。奈文研が10年以上前に復元模型から作ったまま放置されていた立体CGを基にしたといい、担当者は「同じような立体CGは全国にあり、同様の加工で観光向けや教材などに活用できるはず」と胸を張る。
復元模型は1977年の本庁舎建設に合わせて製作された。1階展示ホールの中央に置かれた幅8・4メートル、奥行き6・3メートルの巨大な模型(縮尺1000分の1)で、初めて訪れた人でなくてもつい目を奪われる。奈文研はこの模型を基に2012年に映像資料向けの立体CGを作ったが、その後は10年以上もデータを利用する機会がなかったという。
今回は奈文研と、XR(現実とデジタル画像の世界を結びつける技術)で文化財保護を手がける「桑山瓦」(三重県名張市)などが協力。XR向けの再生アプリ「STYLY」上にダウンロードすれば、現実の風景を写した画面に立体CGが現れる。再現された建物を画面で間近に見ながら平城京内を動き回る疑似体験ができ、有名寺院などの近くに現れる空中の説明板をクリックすれば詳しい解説も読める。専門知識を得たい人向けに、奈文研が全国の遺跡発掘調査報告書をまとめた目録サイトにもリンクしている。
基になった立体CG制作者の大舘洋一さん(70)は12年の作成当時、実際の発掘調査の成果から建物の構造や柱の間隔を設定するなど、10カ月をかけて精密に作り上げたという。「映像でなく能動的に見て回れるXRなら、自分がこだわった細部までゆっくり見てもらえる。報われなかった努力の成果をうまく使ってくれてうれしい」と喜ぶ。PR映像などのために自治体や観光団体が作った立体CGがお蔵入りしている事例は多く、有効活用についての先行事例になりそうだ。
企画した奈文研の高田祐一主任研究員は「古代寺院をCG化する取り組みも広がっているが、今回は再現した街並みを現実の地理空間と結びつけており、より身近に感じられるはず」と話している。【稲生陽】
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