TSK news イット!では「ピックアップ2024」と題して、この時間にお伝えした特集企画で2024年を振り返っています。2回目は、4月に新型車両がデビューした山陰と岡山を結ぶJRの特急「やくも」にスポットをあてます。車両の開発に携わったデザイナーに、新しい「やくも」に込めた想いを聞きました。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
願わくば、新型やくも号導入をきっかけに街が、駅前が、楽しくなる市民の皆さん、地域の皆さんがより幸せになる、未来に希望が持てる。そんな電車にしていただきたいと切に願ってお作りしました。

2024年4月6日、新型「やくも」デビューの日。出雲市駅で行われたセレモニーで、出発を見届けたのは川西康之さん。車両のコンセプトからしつらえの細部まで、新型やくものデザインに携わりました。鉄道デザイナーとして、JRの観光列車やウエストエクスプレス銀河をはじめ、乗り物や鉄道施設などのデザインを数多く手がけ、国内外から注目されている川西さん。やくもの外装や内装にとどまらず、ロゴマークなど新型車両のほぼすべてのデザインを担当しました。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
やくもがコケたら終わりだという危機感は相当ありました。

依頼を受けた当初の様子を、川西さんはこう振り返りました。看板列車として40年に渡って山陰と山陽を結んだ「やくも」はJR西日本にとって「失敗が許されない」列車。デザインでは「やくも」らしさを求められました。そこで川西さんが取りかかったのは、これまでの「やくも」の課題をあぶりだすこと。そこから「やくも」らしさとは何か、考えることにしました。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
一番大事なことは、まずお客様のニーズを把握すること。この先、新型車両はおそらくまた40年使うと思います。次の40年見越して、入れ込んで、デザインに反映させていく設計やデザインの根拠にしていく。

その手始めとして、川西さんはJRの職員やその家族から率直な意見を聞き取りました。このヒアリングをもとに20を超えるデザインを提案、新しい「やくも」の姿を少しずつ固めていきました。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
風景にどう映えるかっていうところを考えたときに、鉄道車両って風景を作るんですよ。我々のやくも号で、風景を少しアクセントを添えることができたらと思うんですよね。

鉄道車両が風景を作る…。山陰の景色の一部になる「やくも」号に。川西さんは実際にどのような提案をしたのか、その一部を見せてもらいました。白をベースにしたAのデザイン案。オーソドックスな印象です。一方、Cは往年の381系の雰囲気を残したデザイン案。Bは川西さんいち推しのデザイン案です。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
この中で一番選ばないだろうなと思って、でもこれが一番いいんだけどなと思ってたのをお選びになったのですごいなと。

存在感のあるブロンズのやくもが選ばれました。その独特の輝きを表現するため、JR西日本の特急車両では初めてメタリック塗装を採用、伯備線など山あいの路線では、木の枝や葉が当たって塗装がはがれやすく、メンテナンスのコストも大きくなりますが、それでもこの案を採用したところからも「失敗できない」やくもへのJRの本気度をうかがい知ることができます。こうして姿が見えてきた新型車両、デザインを進めるうえで川西さんが中心に据えたのは「ファミリー層」でした。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
ベビーカーは、古い381は通路も通らない。ベビーカーを置いておくところもすごく限られているとかなり苦行のような移動であるという。それではなかなか信頼性っていうのは生まれないと。

これまでのやくもでは見かけることが少なかった家族連れ、ファミリー層のニーズに応えることで、新たな需要を開拓できると考えました。その象徴として川西さんが考え出したのが「セミコンパートメント」。向かい合わせの4人掛けと2人掛けの座席でJR西日本の在来線特急では初めて導入されました。座席をフラットに拡げて、足を伸ばしてくつろぎながら列車の旅を楽しめるよう工夫されています。料金は普通車の指定席と同額に設定、家族で乗って旅の思い出を作ることができれば、子どもたちが将来、また利用してくれる。車社会の山陰にも鉄道の文化を根付かせたいと考えました。

株式会社イチバンセン・川西康之さん:
正直申し上げて、とりわけ山陰地方の地域にお住まいの皆様の中で、普段の生活の中で、鉄道の存在っていうのがもうあるのかないのかわかんない。なくても別に生活に困らないという方々が、残念ながら多いように感じます。このやくもをきっかけに、地域のみなさんと手を取り合ってお互いが幸せになる。

鉄道が地域の文化になる。移動手段としてだけではない、新たな期待も託されて新型やくもは走り続けています。

新型「やくも」は車両だけでなく、出雲市駅などに設置された「やくもラウンジ」などサービスも含めたプロジェクトとして国内外で高く評価され、多くの賞を受けました。

国内では9月、国交省や全国の鉄道事業者が選ぶ「日本鉄道賞」の「大賞」に選出されたほか、11月には「”特急やくも”のブランディング」が優れたデザインの製品やサービスに贈られるグッドデザイン賞の「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれました。また海外でも、アジア圏の優れたデザインを表彰する「DFAアジアデザイン賞」でシルバーアワードを獲得しました。

デザイナー・川西康之さん:
鉄道車両の更新だけにとどまらず、駅や人々の巻き込みという辺りもしっかりと評価していただいたという、本当にこの辺りは特に嬉しく思っております。

やくもの車両だけでなくトータルデザインを担当した川西康之さんは、新型車両のデビュー後も、さらにサービス向上を図るためJR西日本と協議を重ねています。

デザイナー・川西康之さん:
ハードで100点満点はなくて、やはり接客する最前線の乗務員・駅員の皆さん、また販売をする皆さんをはじめ、車庫工場で支えていただいてる皆さんと一緒に、さらにやくも号の完成度を高めていく。

地域の期待を背に走り出した新型「やくも」。山陰の鉄道のシンボルとして進化が続きます。

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