作家の津村記久子さん=東京都千代田区で2024年4月11日、宮本明登撮影
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 毎日新聞で連載していた津村記久子さんの『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)が、全国の書店員の投票で決まる2024年本屋大賞(同賞実行委主催)で2位に選ばれた。津村さんは毎日新聞の取材に応じ、「2位になるとは思ってもいなかった。本屋大賞自体が縁のないものだと思っていたので、ノミネートされたのはいい思い出になりました」と語った。

 『水車小屋のネネ』は、子どもを顧みない親から逃れるため、山あいの自然豊かな町に移り住んだ姉妹の物語。18歳の理佐は町のそば屋で働き始め、8歳の妹・律と共にそば屋の水車小屋にいるおしゃべりなヨウム・ネネの世話をすることになる。姉妹がネネや周囲の人々と交わりながら成長する40年間を、10年ごとに定点観測で描いた。

 物語にはそば屋を営む夫婦や律の友人、担任など、さまざまな人が登場し、状況に応じて姉妹にそっと手を差し伸べる。津村さんは22年7月の連載終了時、「彼らはとても良い人間ですが、(中略)出会ったことで『人生を変えた』と称されるような人物としてではなく、現実にあり得る範囲で誰かに善意を手渡すことができる地に足の着いた人物として描くよう気を配りました」と毎日新聞に寄稿していた。「現実にあり得る範囲」で善意を描いた理由について「読んでいる人が、自分はここまでの恩恵にはあずかれないと思うような作品を書きたくないと思った。登場人物を特別にしたくなかったんです」と説明する。

 その特別ではないささやかな優しさが反響を呼んだ。書店員たちからは「小さくも揺るぎない優しさが巡ってゆく世界、何て素晴らしいのだろう」「誰かの親切は『しりとり』のように優しくつながっていく」(いずれも『本の雑誌増刊 本屋大賞2024』書店員推薦の声より)といったコメントが寄せられた。

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津村記久子「水車小屋のネネ」(毎日新聞出版)
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 津村さんは「本屋大賞の発表会では、(書店員から)たくさんのPOPをもらったんです。どれも読んだ方の実感がこもった良いものでした」とほほ笑む。連載中にも新聞読者から、ハガキや手紙でメッセージをもらったという。「『毎日(小説欄を)切り取っています』という方もいて、すごくうれしかったです」

 連載終了から2年近くがたった今、津村さんは「書いて良かった」と振り返る。これから『水車小屋のネネ』と出合う人たちに向けたメッセージを求めると、こう返ってきた。「読む人を阻害しない小説にしようと気を使って書きました。この小説に出てくる人たちは、あなたを否定しない。読んで、人と関わることってそんなに悪いものじゃないと思ってもらえれば」

 そして、とつとつとこう続けた。「たくさんの人と関わっていたら、1人くらいはいい人がいるんですよ。2、3人であきらめないで、何人もの人と関わってみてほしい。誰かは合うかもしれないし、親切にしてくれるかもしれない。まずは、この本と友人になってもらえたらと思います」【松原由佳】

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