既存の文化芸術にとらわれない自由な発想で創作され「生の芸術」とも訳されるアール・ブリュット。多くの作り手が障害のある人や正規の美術教育を受けていない人だ。その作品群が滋賀県立美術館(大津市瀬田南大萱町)で公開されている。【飯塚りりん】
テーマは「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人―たとえば、「も」を何百回と書く。」。同美術館では昨夏に日本財団から寄贈を受け、所蔵するアール・ブリュット作品が817件(寄託品含む)となり世界有数、国内公立美術館では最多になった。
寄贈品はアール・ブリュットが日本で広まるきっかけとなった「アール・ブリュット・ジャポネ展」(2010年、パリ)で展示された貴重な作品群。今回は約450点を初公開した。
一番の注目は、ひたすら文字や絵を繰り返す「繰り返しのたび」。青い服を着た「お母さん」を繰り返し描いた作品では、段々と人物のサイズが大きくなり、紙の余白を埋め尽くしていく。平仮名の「も」を青いペンでひたすら繰り返す作品は「ドラえもん」の「も」だといい、同展示会のタイトルにもなった。同美術館の山田創学芸員は「自閉症の一つの特徴ともされる繰り返しは、窮屈さやストレスを与えるが、やすらぎを感じる行為でもある。繰り返しの持つ意味を感じてほしい」と解説する。
「色と形をおいかけて」ではクラゲやユニホームの形を無数に反復した作品など独特な色や形をちりばめた作品が並ぶ。甲賀市の福祉施設「信楽青年寮」で制作した伊藤喜彦さんの粘土作品は目玉状の突起物が特徴で、モチーフの多くは鬼だという。
最終章の「心の最果てへ」では、過去の記憶や経験を掘り起こして描いた作品など心の動きに着目した。作り手の中には精神科病院に入院し、閉鎖的な環境の中で制作した人も多いという。
山田学芸員は「一人一人につくりたいという願望やつくらなければならないという強迫性があった。作り手のつくることへのエネルギーを感じてほしい」と見どころを語る。
6月23日まで。一般950円、高大生600円、小中生400円。午前9時半~午後5時(入場は午後4時半まで)。月曜休館(祝日開館、翌火曜休館)。問い合わせは同館(077・543・2111)。
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