王将戦第5局が開かれる旧渋沢邸「中の家」。手前は若き日の栄一像=埼玉県深谷市内で2024年6月11日午後4時22分、隈元浩彦撮影

 将棋のALSOK杯第74期王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催、ALSOK特別協賛)の第5局が来年3月8、9日に埼玉県深谷市出身の渋沢栄一ゆかりの旧渋沢邸「中の家(なかんち)」で開催されることが31日、決まった。栄一が肖像となった新1万円札発行の記念すべき年の朗報。栄一自身も将棋好きで、市からは「栄一翁も歓迎しているはず」という喜びの声が上がった。

 深谷市での王将戦開催は初めて。「中の家」は栄一が生まれ育った家の跡地に、後を継いだ妹夫妻が1895年に建てた木造2階建て家屋。帰郷する度に栄一も滞在した。2023年に大規模な改修が行われた。

 栄一を巡っては、旧1万円札の肖像となった福沢諭吉と対局したエピソードが残されている。「福沢諭吉氏は強かった、一度大隈(重信)さんのところで私とやって私が勝ったら『渋沢君は変な人だ、将棋なんか強いとは思はなかった、どこかで稽古でもしたのか、自分は強いつもりでいたのだが…』など言ったヨ」。晩年の回想録「雨夜譚(あまよがたり)会談話筆記」の記述だ。腕には自信はあったのだろう。

 同書にはこうも書かれている。1887(明治20)年前後のことという。「暇をつぶしていけないから、心を制して全く手にしない事にした」。事業のため、自制しなくてはならないほどの将棋好きだったようだ。

 そんな栄一と将棋の関係に着目した市が王将戦の招致に動き出したのは23年。市渋沢栄一政策推進部の青木克尚部長(60)は「新札発行記念のメインの事業として構想しましたが、厳しいと思っていました」。議会からも「将棋のタイトル戦を誘致できないのか」という声が上がり、市を後押しした。

 そして開催地決定。青木部長は「栄一翁も私たちと一緒に喜んでくれているはずです」とほほ笑む。「王将戦に向けて、子どもを対象にした将棋大会の開催など、あれこれ考えているんです。街を挙げて盛り上げていきたい」。そう語り、口元を引き締めていた。【隈元浩彦】

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