開幕中の東京国際映画祭で10月29日、5月のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したインドのパヤル・カパーリヤー監督と、審査員を務めた是枝裕和監督が対談した。身分制度による不平等や多言語社会を背景にインドで生きる女性たちを描いた作品への思いが語られた。
カパーリヤー監督は長編第2作となる「All We Imagine as Light」で、最高賞パルムドールに次ぐグランプリを受賞。作品は日本で2025年7月に劇場公開される予定だ。
受賞作はインドのムンバイでルームメートとなった女性2人の物語。カパーリヤー監督は「2人ともかなわない恋をしている。友情の話であり、自分なりの『家族』を作っていく話でもある」とした上で、「インドでは家族は複雑な存在で、支えもしてくれるが、足かせになる時もある」と語った。階級や宗教、ジェンダーによってさまざまな不平等があるといい、「アイデンティティーは人々を大きく分断するもの。例えば、女性は人生の伴侶選びをコントロールされている」と指摘。「インドの観客に作品がどう受け止められるかは分からない。ただ、疑問を投げかけ、社会に対する思いを表現し続けるのが我々の仕事だ」と力を込めた。
是枝監督は「登場人物が置かれている状況は厳しいが、語り口は穏やかで声高にならない。すべての登場人物に監督の愛情が込められている」と評し、「カンヌ映画祭では深刻な状況を克服するために戦う映画や、声高な映画がたくさんあったが、この作品が一番語りかける力が強かった」と絶賛した。
カパーリヤー監督はインドの映画学校時代に川端康成の「掌の小説」を読み、簡潔な表現の中に多くの情報が込められていることに感銘を受けたという。「日常を描いた数段落に、歴史や現実や不安や幸福が込められていた」と驚きを語った。
インドには20以上の公用語があり、作中にもさまざまな言語が登場する。「ムンバイにいると、いろいろな言葉が聞こえてくる。お互いの言語を理解できないのも文化の一つ。字幕の付け方を考えないといけない」とほほ笑んだ。
対談は東京国際映画際と国際交流基金が共催する「交流ラウンジ」の一環。11月3日まで、ニア・ディナタ監督と三島有紀子監督の対談などが企画されている。すべて映画祭のユーチューブチャンネルで配信される予定。【村瀬優子】
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