長野県諏訪市の諏訪湖畔にある市石彫公園(湖岸通り4)で26日夕、諏訪湖が舞台の人形浄瑠璃文楽の人気演目「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう) 奥庭狐火の段」の野外公演があった。湖中の八重垣姫像を背景に文楽協会の技芸員が情緒豊かに人形を操り、訪れた愛好者や家族連れなど大勢が諏訪ゆかりの幽玄の世界を堪能した。
演目は、越後の武将上杉謙信の娘、八重垣姫(架空の人物)と甲斐の武将武田信玄の息子、勝頼の恋物語。午後5時、黄昏(たそがれ)時の諏訪湖畔。茜色の陽の名残りが八重垣姫像を照らす中、御諏訪太鼓の演奏に続き、御神渡(おみわた)り神事をつかさどる八剱(やつるぎ)神社(諏訪市)の宮坂清宮司が船上で奏でる篠笛(しのぶえ)の音色で開演した。八重垣姫を操る吉田勘彌(かんや)さんなど技芸員の熟練技に観客は引き込まれた。
クライマックスは、八重垣姫が、神力の宿る「諏訪法性兜(すわほっしょうのかぶと)」を左手に掲げ、諏訪大明神が遣わした狐と狐火に導かれて、凍った諏訪湖を渡っていく鬼気迫る場面。恋する勝頼に身の危険を知らせに急ぐ八重垣姫。人形に命が吹き込まれたかのような表情やしぐさ、動きを観客はかたずを飲んで見入った。
終演後はライトアップした八重垣姫像の前で、クライマックス場面を再現する演出もあった。この日を楽しみにしていたという千葉県鴨川市のアーティスト、嶋田美子さん(65)は「夕闇の諏訪湖の八重垣姫像の前での野外公演は感動ものでした」と話した。観客の中には「感動で涙が止まりません」という女性も。
主催した一般社団法人大昔調査会(高見俊樹理事長)が「聖地」の諏訪湖で無料公演したいとクラウドファンディングで資金を募り実現した。同会では「350人以上の方に楽しんでいただけました」と話した。同会は、今回の公演を含め諏訪の自然と歴史文化を発信する短編映画を製作する予定。【宮坂一則】
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