トーク力で注目されるアンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)=東京都港区(石井健撮影)

6人組ガールズバンド、Gacharic Spin(ガチャリックスピン)のマイクパフォーマー、アンジェリーナ1/3(22、以下アンジー)が「新たなラジオスター」として注目されている。「パーソナルな部分も隠さず、素直な思いを届けたい」とラジオで語る本音のしゃべりが、若者たちに支持されているのだ。

伯山の妹

髪の毛をショッキングピンクに染め、ド派手な外見のアンジー。マイクパフォーマーとは、要するにボーカリストのことだ。

「夢は口に出せば叶う!!遅番」(TBSラジオ)や「A世代!ラジオ」(文化放送)などの番組を持っている。

だが、「パーソナリティーを始めた頃は、特にラジオに対して熱を持っていたわけではなかった」と明かす。

人気講談師、神田伯山(40)との出会いがすべてを変えた。

番組にリスナーから「伯山さんの講談をぜひ聴いてほしい」とメールが届いたのがきっかけ。伯山が「中村仲蔵」を演じる映像をYouTubeで見て「〝ボロ泣き〟した。こんなにすばらしい芸を知らずに私はステージに立っていたのか」と衝撃を受けた。

ガチャリックスピンは、今年10月に活動15周年を迎える。息の長い、ハードでパンキッシュなサウンドのバンドだが、アンジーが加わったのは5年前。加入以前のレパートリーを、どう歌えば自分のものとなるのか悩んでいた。

「講談って昔からある話じゃないですか? それなのに伯山さんは自分の言葉で語って、まるで登場人物が目の前で語っているようでした」

伯山のラジオ番組を聴くと、これもすばらしかった。

「あれでラジオへの憧れが生まれ、ラジオが自分の生活にかけがえのないものに変わりました」

その感動を自分の番組で報告。すると、これが伯山に伝わり、番組にゲスト出演してくれた。さらに、コロナ感染で倒れた伯山から彼の番組の代役パーソナリティーに指名された。

この「伯山の妹」に爆笑問題の太田光(58)も注目し、自身のテレビ番組にゲストコメンテーターとして呼ぶようになる。ピンクの髪のロック歌手は、テレビでも知られるようになった。

アンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)=東京都港区(石井健撮影)

父の残したもの

高校の文化祭で弾き語りをしていたのが、バンドのリーダーでサウンドの要でもあるベース奏者のFチョッパーKOGA(37)の目に留まり、オーディションを受けるよう誘われたのがきっかけで、バンドに加入した。

居酒屋を営む日本人の父と、スペイン・フィリピンのハーフの母との間に生まれ、異なる国の血が3分の1ずつ流れているという意味を込めて芸名に「1/3」をつけた。

ハスキーな声。ボーカリストとしては強力な武器だが、子供の頃は自分の声が嫌いだった。また、子役としてドラマに出るなど目立つ子だった。だが、いじめに遭い、小学5、6年生の頃は、ほとんど登校しなかった。

父が50歳の若さで亡くなったのは、アンジーが中学1年生のときだった。

サザンオーススターズ、山下達郎、ユニコーン…。たくさんのCDが残された。それらを聴くと、父とのさまざまな思い出がよみがえってきた。

「肉体は消えても音楽があれば、一緒に見た景色などが鮮明に思い浮かぶ」

このとき、音楽の道に進むことを決めた。

必ずプロになる

子役だったこともあり女優を目指していたが、「応援してくれた父に見てもらえないのなら意味がない。違う表現者を目指そう」。そんな気持ちもあり、音楽や表現に関することを専門的に学べる高校へ進学した。

「在学中に必ずプロになる」と家族に宣言。さらに「自分がやりたいと言って進学したのだから」、学費を母に「返済する」と、入学後はアルバイトにもいそしんだ。

そして2年生のとき、文化祭で弾き語りをして、FチョッパーKOGAの目に留まり、令和元年からGacharic Spinに参加。「プロになる」という約束を守った。

「当初は『音楽未経験の女子高生が10周年を迎えるバンドに入る』っていう話題が先行したけど、私の存在が世にしっかりと認められてきているのがうれしいです。過去の自分の想像を超える未来を迎えている」

バンドは、2月に5曲入りEP「Ace」を発売した。

ストックは100曲以上あるが、今回は5曲とも新たに書き下ろした。

「全部エース級の曲。10月の15周年を目指し、強いサウンド、強い思いをぶつけなくてはならない。一切妥協がなく、まさにエースといえるEPを作りました」とアンジーは胸を張る。

自分へ

ハスキーな自分の声が嫌いだった。

アンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)=東京都港区(石井健撮影)

「今でもやっぱり、この声だから表現できないこともあり、すごく悔しい思いをすることはありますが、でも、やっぱり歌がすごく好き」

ラジオも大好きだ。

「ラジオって噓がない。人間の内側にあるドロドロの汚い部分も爽快に、熱っぽく語ってしまうことができる。そこに人間味があるというか。私もいろんな思いがある中で葛藤してステージに立っています。ラジオは、パーソナルな部分も隠すことなく届けていいメディアです」

好きじゃなかった自分の声が、「誰かの生活の中の一部になっている」ことが、なによりもうれしい。

「小学生の頃の私に伝えたい。10数年後、あなたの声に励まされる人たちが出てくるんだよって」(石井健)

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