ソウルのLINE FRIENDS広場内にオープンしたNewJeansのポップアップストア yllyso - shuttestock
<9年ぶりのアルバム輸出減少......。K-POPバブルは弾けたか?>
この夏、民放各局の音楽特番にはNewJeansをはじめとしたK-POPグループが出演。また夏の野外音楽フェスにも多くのK-POPアーティストの参加が発表され、すっかり日本の音楽シーンにもK-POPは定着した感がある。
ところがそんなタイミングで韓国から届いたのは2024年上半期の韓国CDアルバム輸出が金額ベースで9年ぶりの減少となり、主要音楽事務所が軒並み株価を下げているというニュース。とうとうK-POPバブルは弾けてしまったのか? 韓国メディアの聯合ニュース、JTBC、ソウル経済、MTNニュースなどが報じた。
元祖ガールクラッシュ、2NE1復活の意味するところ
7月22日午前0時、BLACKPINKなどが所属するYGエンターテインメントのユーチューブチャンネルに1本の動画がアップされた。動画の中で同社の創業者で現在は統括プロデューサーのヤン・ヒョンソクが語ったのは、同社を大手芸能事務所へと成長させた原動力ともいえるガールズグループ、2NE1(トゥエニーワン)のカムバックだった。
2NE1は2009年にデビューした4人組ガールズグループで、ヒップホップ系のサウンドと力強い女性像を前面に出して、女性が憧れる女性アイドル像として語られる"ガールクラッシュ"の草分け的存在だった。ちょうど同じYGからBLACKPINKがデビューした2016年に解散したが、いまだに熱烈なファンは多く、2022年にはメンバーのCLが米音楽フェスにソロアーティストとして出演した際に、他のメンバー3人がサプライズで参加し代表曲「I AM THE BEST」を披露したことで活動再開を求める声が高まったこともある。
ユーチューブ動画の中でヤン·ヒョンソクは「2NE1メンバーが15周年を記念したコンサートを開いてみたいという意見を伝えてきた」と明らかにした。事実、6月下旬には2NE1メンバーとヤン·ヒョンソクが8年ぶりに打合せをしたことがYGから発表されて話題を集めていたが、それは今回のコンサートのための打合せだったわけだ。2NE1は10月5日・6日にソウル・オリンピック公園オリンピックホールでの公演を皮切りに11月末に神戸ワールド記念ホール、12月に東京有明アリーナ、さらに2025年もワールドツアーを続ける予定だという。
ヤン・ヒョンソクは「2NE1と共に育ち、その音楽を聴いて育った世代が思い出を共有しています。全スタッフと一緒に一生懸命努力して成功的な公演を作り出したい」と自信を表わした。
1度は解散した2NE1にこれだけYGが期待をかけるのには理由がある。YGには経営危機説が出ているからだ。
2NE1についての動画がアップされたのは22日0時。これは週明けからの株価回復のためにこのタイミングになったと分析されている。韓国では最近、YGをはじめとした音楽芸能事務所の株価が全般的に急落した状況だ。なかでもYGの株価は先週、軒並み下落した。ところが2NE1のカムバックのニュースが伝わると、22日、最高値3万7850ウォンまで記録し、3万5800ウォンで取引を終えた。 結果的には19日対比550ウォン上がって大幅ではないが回復し、取引量も7月中で最も活発となった。
NewJeansの事務所代表ミン・ヒジンも、「押し出し」など過度なCD販売競争への批判を語っている。 뉴스1 연예TV / YouTube
アルバム輸出、9年ぶりに減少の衝撃
だが、問題を抱えるのはYGだけではない。韓国の4大音楽事務所──YGエンターテインメント、SMエンターテインメント、HYBE、JYPエンターテインメントはすべて今年に入って大きく株価を下落させ、上半期の時価総額は昨年同期比30%も減少した。
これを象徴するかのような"事件"が7月15日、明るみに出た。韓国関税庁が発表した輸出入貿易統計によると、今年上半期のCDアルバム輸出額は1億3032万ドルで、前年同期比-2%と9年ぶりの減少となった。内訳では日本への輸出額が4693万ドルで最も多く、米国が3045万ドルで後に続いた。K-POP業界の不振の主な要因とされてきた中国向け輸出は1840万ドルで、全体の14%を占めるに止まった。対中輸出額は前年比18.7%も減少したことになる。
またアルバムの販売量も減少した。韓国音楽コンテンツ協会が集計するサークルチャートによると、上半期のトップ400アルバムの販売量は4760万枚で、昨年比800万枚、15%減少した。4大音楽事務所に限ってみても昨年上半期のアルバム出荷量は5345万枚だったが、今年上半期は4474万枚と17%近く減っている。一体何が起きているのだろうか?
主要アーティストのアルバム販売がダウン
今年上半期、K-POPアーティストのリリースしたアルバムは残念ながら前作に及ばない販売量を記録したケースが多かった。
アルバムの初週の販売量(ハントチャート基準)を前作と比べてみると、SEVENTEENは509万枚から297万枚に、ZEROBASEONEは213万枚から135万枚に、BTSのRMは62万枚から56万枚に、IVEは161万枚から132万枚に、Red Velvetは41万枚から27万枚へとそれぞれ減少した。aespaは113万枚から115万枚に小幅増加したが、昨年170万枚を記録した3番目のミニアルバムを超えることはできなかった。もちろん、SEVENTEENのアルバムは新曲が少ないベストアルバムである点と、RMは兵役のためプロモーションが事実上なかったという点もあったことは考慮されるべきだが、全体として売上が落ちていることは否めない。
アルバム販売は2023年がピーク?
さらに販売減の要因として指摘されるのは、これまでの過度なアルバム販売戦略がファンたちの疲労感を呼び起こしたのではないかという点だ。
特にNewJeansの所属事務所ADORのミン・ヒジン代表が、親会社HYBEを批判する記者会見で指摘した「フォトカード」や「押し出し」はK-POPに限らず、世界のレコード業界の抱える問題として注目を集めている。
このうち「押し出し」とは、アルバムの初回販売数を上積みさせるため、レコード会社が卸売業者にCDを一定数を買い取らせる商法を指す。卸売業者はCDを売り切るために一定枚数を購入したファンを対象としたアーティストのサイン会を実施するが、熱心なファンは何度もアーティストとの触れあいの機会をもちたいからと沢山のアルバムを購入するため、1回のサイン会が数時間もかかることがある。それでなくても新曲のプロモーションで多忙なアーティストがさらに疲弊する要因になっていると問題を指摘する声は多い。
またK-POPに限らず、近年のレコード業界はアルバム販売数を引き上げるためにアルバムジャケットのビジュアルを複数バージョン作ったり、アーティストの「フォトカード」を複数作ってランダムに封入することで同一アルバムをファンに何枚も売りつける販促戦略を使ってきた。
米ビルボードは最近「アーティストたちがこれまでになく多くのバージョンの異なるアルバムを出している」という記事を通じて14種類のバージョンでアルバムを出したテイラー・スウィフトの事例と共にK-POPについても取り上げた。ビルボードは「CDのバリエーションは多くのK-POPアーティストが『ビルボード200』で好成績を出すことを助けた」として「韓国では多くのファンがCDプレーヤーをもっていないにも関わらず、レコード会社は『宝くじスタイル』のマーケティング戦略とグッズを伴ったパッケージCDを導入する」と指摘した。
だが、こうした過熱気味のマーケティング手法は長続きはしないようだ。事実、一部K-POPアイドルグループのファンからは「ファンミーティングに行くために20枚以上アルバムを買うことも多いけど、最近は大変です」という声が聞こえている。
サークルチャートのキム·ジヌ首席研究員は、「昨年アイドル初年度販売量競争がどの年より激しかった」と語る。「ライバル歌手の販売量に追いついたり、前作の販売量を超えなければならないという事務所とファンの強迫観念が『押し出し』あるいは『無限ファンミーティング』のような市場の過熱を招いた。そのバブルが今年一部はじけて現れた結果だ」と分析した。
ある大手音楽事務所の関係者も「音楽的に(クオリティが)落ちたとかいう意味ではないが、アルバムのインフレがもうピークを過ぎたという話はたくさん耳にした」として「ファンも音楽関連コンテンツを消費するとき、アルバムだけに『オールイン』しない。オンラインコンテンツ、グッズ、ライブなど、さまざまなスタイルの消費をするということだ」と話した。
このままK-POPは冬の時代へ?
アルバム販売の急落と株価低迷。果たしてこのままK-POPは冬の時代へ突入してしまうのだろうか?
韓国の音楽業界関係者は「今年下半期も特別な契機がなく劇的な反騰は起きにくいだろうが、だからといってK-POP市場が冬の時代になることはない」と展望する。また別の大手芸能事務所の関係者は、「下半期も(上半期と)ほぼ同じ水準になりそうだ」とし、「中国のアルバムセールスが伸びず、その落ち込み分は穴埋めしづらいが、それでも海外コンサートなどで全体の売上は回復できるだろう」と話した。
他の業界関係者は「アルバム販売が最も重要な収益ルートではあるが、収益モデルを多角化しアーティストパワーを長く引っ張っていける力を作る必要がある」と指摘した。
株価については、意見が分かれている。ユアンタ証券のイ·ファンウク研究員は最近のリポートで「新事業のマーケティングコスト上昇と海外新人アーティストのローンチング費用」(HYBE)と「主要アーティストの活動空白および日本での実績が遅れて反映される」(JYP)などで主要音楽事務所の第2四半期実績が市場期待値を下回ると見通した。
ダオル投資証券のキム·ヘヨン研究員は12日、レポートで「現在、アルバム販売量の底固めは完了したと判断し、年間アルバム出荷量は-20%水準と展望される」と分析した。
K-POP、韓国のものから世界の音楽へ拡散?
業界では今がK-POPの再飛躍のための足場を固める段階だと判断している様子だ。
なにより2025年はK-POPの2大アーティストBTSとBLACKPINKの完全復活が予定されている。BTSは来年、全メンバーの兵役が終了して完全体でカムバックし、グローバル活動を再開する予定だ。BLACKPINKもヤン・ヒョンソクが2NE1復活を紹介した動画の中で「2025年中に完全体でカムバック、ワールドツアーをする」と明らかにしている。
日本市場の再拡大もK-POP業界には朗報だろう。6月末に開催されたNewJeansの東京ドームファンミーティングでは、メンバーのハニが松田聖子の「青い珊瑚礁」をカバーしたことが日韓で大きな話題を集めた。また販売不振と言われるK-POPアルバムだが、日本ではオリコンの7月3週のアルバムチャートでは1位ENHYPEN『ROMANCE:UNTOLD』、2位TWICE『DIVE』、3位JIMIN『MUSE』とトップ3をK-POP勢が占めている。
さらに、日本でNiziU、NEXZをデビューさせたK-POP育成プログラムの海外展開が、今度は欧米で実を結びつつある。HYBEはグローバルオーディションで選抜した6人組ガールズグループKATSEYEを8月16日に全米デビューさせる。メンバーはアメリカ、スイス、フィリピン、韓国とまさにグローバルな活躍を期待させる多国籍チームだ。また、SMエンターテインメントは今年下半期にイギリスでボーイズグループをデビューさせる予定で、彼らの様子を追いかけたドキュメンタリーがBBCを通じて公開されるという。
HYBEが米ゲフィンレコーズと組みデビューさせるKATSEYE「Touch」ティザー動画 / YouTube
アルバム販売は減ったが、音源ストリーミング実績は着実に上昇しているという点も注目される。 ファンの消費パターンが変わり、収益創出ルートの多角化も行われている。 HYBEはK-POPファンコミュニティプラットフォーム「ウィバース」に有料サブスクプランを導入する予定だ。
こうしてみると、韓国のアルバム輸出は2023年をピークとして今後増えることはないのかもしれない。だが、それはK-POPの衰退を意味するのではなく、K-POPがさらに世界中に広がり、CD以外のさまざまなメディアへと浸透していくことの証しなのかもしれない。
【日本語字幕付き動画】2NE1のカムバックと世界ツアーを明らかにするヤン・ヒョンソクPD
2NE1の15周年記念コンサート、さらには2025年のBLACKPINKカムバックを予告したYGヤン・ヒョンソク統括PD YG ENTERTAINMENT / YouTube
【動画】HYBEが米ゲフィンレコーズとデビューさせるKATSEYE
K-POPのさらなる世界進出を目指して、HYBEがグローバルオーディションでデビューさせるKATSEYEの先行リリース曲「Debut」 HYBE LABELS / YouTube
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