「応援と感謝の思いを込めて歌いたい」と国歌の練習に励む時田直也さん。後方には亡き父の写真も=神戸市中央区で2024年4月23日

 東アジア初開催となる世界パラ陸上競技選手権大会が17日から9日間の日程で神戸市で開かれる。開会式で国歌独唱の大役を任されたのは全盲の声楽家、時田直也さん(63)=神戸市中央区。「選手を応援する思いと、いろいろな人に支えられてきた感謝の気持ちを届けたい」と語る。

 大会組織委員会から依頼を受けたのは2023年5月。「驚きと共に、光栄なことなんだという重責がじわーっと心に広がってきた」と振り返る。連日、自宅で練習を重ねている。「わずか1分足らずだが、本番までにどういう緊張感になっていくのか初体験なので想像できない」

 君が代の歌詞の中でも「千代に八千代に」というフレーズに思い入れがあるという。「全ての人の尊厳が大事にされ、安心して笑ったり泣いたり、その人らしく生きることができる平和が永遠に続いてほしい」と願いを込める。

音楽で表現する

 時田さんは生後半年で未熟児網膜症と診断され、6歳の頃から習い始めたピアノが音楽との出合いだった。小学4年時に書いた遠足の感想文に対し、先生から文章が未熟だと言われた。その時、知人から「思いを文章ではなくて曲にしたら」と勧められ、音楽での表現に関心を持つようになった。

 1981年、全日本盲学生音楽コンクール(現ヘレン・ケラー記念音楽コンクール)の声楽部門で優勝。89年に大阪音大を卒業後、声楽家として本格的に活動を始めた。阪神大震災(95年)や東日本大震災(11年)の被災者らを支援するため、全国の小中学校などでコンサートを続けている。

 「おまえが生まれてきてくれてうれしかった」。亡き父の言葉に支えられている。時田さんは「目が見えないことは不便ではあるが、決して不幸ではない」。そして「スポーツにしても、音楽にしても平和じゃないとできない」と力を込める。

 亡き父へ、そしてこれまで支えてくれた多くの人への恩返しの舞台は整いつつある。「歌うことで希望と喜びを語りたい」

 世界パラ陸上は神戸市須磨区の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開かれる。約100カ国・地域の選手約1300人が参加する予定だ。【関谷徳】

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