インタビューに答える小谷実可子さん=東京都千代田区で2024年3月15日、宮本明登撮影

 ソウル・オリンピックのメダリストで日本シンクロ界のレジェンド、小谷実可子さん(57)が約30年ぶりに「現役復帰」した。3月に閉幕したマスターズの世界大会で、2年連続の優勝を果たした。毎日新聞のインタビューに応じ、復帰にあたっては苦労続きだったと明かした。

 指導者や2人の娘を持つ母親など多くの顔を持つ。忙しい合間を縫い、ドーハで開かれた世界マスターズ選手権のアーティスティックスイミング(AS、旧シンクロナイズドスイミング)に出場。初めて挑んだ男女混合のデュエットで金メダルを獲得した。「楽しく勝てる演技ではなく、自分の今の限界に挑戦できました」

 マスターズへのチャレンジは、昨年8月に国内で行われた同選手権に参加したのが始まりだった。開催が決まって以降、仲間たちと出場して大会を盛り上げようと、練習してはいた。水泳スクールで教えたり、ショーで泳いだりし、「泳ぐことには慣れていた。ちょっと頑張れば何とか挑戦できるかなくらいの手応えはあった」。

ドーハで開催された世界マスターズ選手権のアーティスティックスイミング混合デュエットに臨んだ小谷実可子さん=スポーツビズ提供

 「軽い気持ち」で臨もうとしていた小谷さんが、本気で取り組む転機になったのは、2021年の東京五輪だ。スポーツディレクターとして全力投球した五輪が終わり、「精も根も尽き果てた。このままだと廃人になりかねない」と目標を見失いかけた。恩師から発破をかけられたことも大きい。「中途半端な小谷実可子の演技は許されない。やるなら覚悟を決めて、必ず金メダルを取りなさい」と叱咤(しった)された。ソロ、デュエット、チームの3冠を目指すと決意し、実際に3種目すべてで金メダルを取った。

 50歳を過ぎての挑戦は苦労の連続だった。現役引退後の約30年間でASの技術は大きく進化したからだ。

 例えば、足技。小谷さんによると、今、1988年のソウル五輪の演技の水準なら、日本選手権で地区予選落ちしてしまうという。五輪レベルでは、当時より「動き、速さともに倍近くにする必要があります」。現代のASに順応しようと、難易度を上げた結果、足がつって筋肉痛となり、鎮痛剤を飲まないと眠れない夜が続いた。

 練習については、毎日最低でも7~8時間、打ち込めた現役時代とは違い、週2回、2時間程度に限られ、練習場も自ら探して自費でまかなう。筋肉痛を抑えるためのシップなどはドラッグチェーン店の特売やポイントが倍になる日を狙って調達する。

 「いろいろ工夫し、効率的な練習をした日々がすごく楽しかった。自分の成長や進化がうれしい」と話す。生涯現役を目指す小谷さんの挑戦は続く。【福田智沙】

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