23年ぶりに全国高校駅伝に出場する三重・稲生(いのう)は7人全員が2年生の布陣で県予選を制した。伝統校の伊賀白鳳から異動し、就任3年目の中武隼一監督(40)の下、新たな伝統を築こうとしている。
12月中旬、稲生のグラウンドを訪れると、目標の書かれたホワイトボードが目に留まった。
「自覚と責任を持つ」、「意識の差をなくす」など学年ごとに達成すべき目標が記されている。
これらは選手たち自身がミーティングで立てたもので、互いに確認してから練習が始まった。
中武監督は伊賀白鳳の前身の上野工卒。2010年から母校の伊賀白鳳でコーチと監督を歴任し、21年の東京オリンピック男子マラソン代表の中村匠吾選手(富士通)が在学中も指導した。22年春、異動で稲生に赴任した。
赴任当時は長距離専門の選手が陸上部にほとんどいない状況だった。就任2年目の昨春、中武監督の教えを請いたいと、中学時代に長距離の経験のある新入生たちが複数入部した。それが今の2年生だ。
その頃から中武監督は「3年生になってからではなく、2年生で勝つことに価値がある」と呼びかけてきた。それに応えるように、選手たちは自覚を持って練習に励み、今秋の県予選で伊賀白鳳を破った。
中武監督が伊賀白鳳時代から指導で大切にするのは、競技力以上に人間的な成長を促すことだ。そのため、練習においても正解をそのまま与えるのではなく、自分たちで考える力を養うことを心掛けてきた。これは自身の恩師で、伊賀白鳳を強豪に育てた町野英二さん(12年に死去)の指導方針でもあった。
県予選の1区で好走した広瀬聡真選手は「先生は大学やその先のことも考えて指導してくれている。今では目的を自分で考えて練習できるようになってきた」と語り、選手たちにも浸透している。
もともと、大会前に荷物や予定を共有する際に開いていたミーティングも、自然と回数が増えた。意見を交わしながら目標や達成に必要なことを共有することで、結束力が増した。
中武監督の人脈を生かして参加した佐久長聖(長野)や洛南(京都)など強豪校との合同練習でも収穫があった。学んだウオーミングアップの方法をまねするのではなく、自分たちに必要な要素を加えて取り入れた。
全国高校駅伝34回出場の伊賀白鳳では、歴代の先輩が積み上げてきた伝統があるが、稲生では選手たちが新たに道を切り開いていかねばならない。しかし、中武監督は選手にとってプラスになると考えている。
「教科書的な部分がないからこそ、何のためにこの練習が必要なのか考えて本質を突くことができる」
メンバー全員が初挑戦となる都大路でも、今持つ力のすべてを発揮するつもりだ。【下河辺果歩】
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