スター選手でもハードワークをいとわないのが、J1を連覇したヴィッセル神戸の特徴だ。そんなチームを象徴するFW武藤嘉紀が、「Jリーグ・アウォーズ」で初のMVP(最優秀選手賞)に輝いた。受賞スピーチで「華やかな経歴には見えるが、多くのけがや挫折、紆余(うよ)曲折を経て今がある」と実感を込めた。
今季は、2014年に並ぶ自己最多13得点を挙げてチームの連覇に貢献した。象徴的だったのは、優勝争いが佳境を迎えた11月30日の柏レイソル戦だ。0―1でリードされた試合終盤にエースのFW大迫勇也が痛恨のPK失敗。敗色濃厚の展開で、後半追加タイムの同点ゴールでチームを救った。
プレースタイルは泥臭い。32歳のベテランながら豊富な運動量を生かし、スプリント回数はリーグで4番目に多かった。神戸のDF酒井高徳は「あれだけ攻守を同時にできる選手は、Jリーグでは彼しかいない」と語った。
慶大に進み、在学中に特別指定選手としてJ1のFC東京でプレーした。4年時の14年にFC東京に正式加入し、いきなりリーグ戦13得点を挙げ、ベストイレブンにも選ばれた。同年9月には日本代表デビュー。文武両道の「エリート」と注目された。
15年にドイツ1部リーグのマインツに完全移籍し、イングランドやスペインでもプレー。21年夏に神戸に完全移籍した。欧州では長く出場機会に恵まれない時期も過ごした。悔しさから「帰り道に泣きながら大熱唱して運転したこともある。苦しい経験、逃げ出したくなるような経験が僕を人としても選手としても強くしてくれた」と明かした。
武藤は「あばら骨を折ってかなり苦しい時期もあった。そんな中で素晴らしい賞をいただけたことは幸せに思う」と振り返った。MVPの栄誉は、ひたむきさの結晶だった。【高野裕士、生野貴紀】
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