1日にあったJR九州対バイタルネット戦を一塁側スタンドから応援する山下さん(右)=京セラドーム大阪で2024年11月1日午前11時34分、長岡健太郎撮影

 第49回社会人野球日本選手権大会で、JR九州(福岡)は6日の2回戦で今夏の都市対抗野球大会の覇者、三菱重工East(神奈川)と対戦する。1日のバイタルネット(新潟)との初戦で声援を送っていたのは、野球部OBでJR博多駅駅員の山下翔さん(42)。2005年のJR福知山線脱線事故でJR西日本硬式野球部(広島)が休部し、JR九州へ転籍していた。

 長崎県雲仙市出身で、創成館(長崎)から進んだ東亜大(山口)では明治神宮野球大会で日本一に貢献。将来のプロ入りを見据えながら05年、JR西日本に入った。

 ところが、05年4月25日、兵庫県尼崎市で乗客ら107人が亡くなった福知山線脱線事故が起きた。チームは都市対抗野球大会予選の出場を辞退し、ほどなく休部になった。会社に残る選手や他チームに移る選手などいる中、山下さんが同僚と2人で選んだのがJR九州への転籍だった。

 「野球を続けたくても諦めた先輩たちの分までプレーしたい」と現監督の中野滋樹さんらと05年秋の日本選手権に出場。だが、06年以降は手首への死球などで度重なるケガに泣かされ、27歳でユニホームを脱いだ。

 福知山線脱線事故当時にJR西に在籍し、今は駅窓口や改札の業務などで鉄道の仕事に向き合う中で「一つの事故がいろいろな人の人生を翻弄(ほんろう)してしまう」と痛感する。「もし事故がなければプロ野球選手の道を歩めていたかもしれない」と考えたこともあったが、「JR九州で出会った人たちは宝物」と後悔はない。来年で事故から20年。「二度と同じような事故を起こしてはいけない」と、人一倍強い安全への意識を持って業務にあたる。

1日にあったJR九州対バイタルネット戦を一塁側スタンドから見つめる山下さん=京セラドーム大阪で2024年11月1日午前11時34分、長岡健太郎撮影

 そんな山下さんの励みは後輩たちの活躍だ。年に数回は差し入れを届けたり、グラウンド整備を手伝ったりもする。職場の身近な人を応援できる社会人野球の魅力に改めて気づかされたという。

 JR九州はバイタルネット戦では、山下さんの創成館の後輩、鷲崎淳投手(26)が完封で抑え、攻撃陣も13安打10得点で圧倒した。京セラドーム大阪で躍動する後輩たちには「野球ができる幸せを感じながら楽しんでプレーしてほしい」とエールを送る。【長岡健太郎】

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